4月13日(金)17:00追加
176 - くじらのはらわた
今、目の前の池に沈められようとしているこの塊が、何の肉かも知らない。
生前の姿は元から知り得ない。
『降ろすぞ『ゲホッ『
だが鵲には、確かに知っている事がある。この池も、この肉の事も。
肉は
今にも崩れそうな腐肉に
作業は総出で三日三晩掛かるのに、男達の腹を少しも満たすことのないこの
その答えは単純明快、この場に居る誰もが知っている。
この肉塊は、脚になるのだ。
己の肉を腐りながらにして生かされ、虫共の
男たちの仕事ぶりで跳ねる汚水と、池の住人である有象無象の虫達を全身に引っかぶりながらも
*
池の仕事を見終えた鵲少年は、作業場にやってきた。
彼は
彼の作業場は太い鉄骨が張り巡らされた空間、その中央には
丁度目の前で揚がったのは、
正確には、虫共が中心の肉へ食らいついている。うねうねとみちみちと、空間全てに充填され、一見仲良く
そんな有様であるから、
腐肉の周囲は、自然界より厳しい弱肉強食だ。
「いい肉じゃの」
鵲の後ろから声を掛けてきたのは、彼の胸にも満たない背丈の老婆だった。
「
「おはようさん。今揚がったのは検分せんと使えん。今日は指をやるが、もう
*
『
先ほどの肉から離れた鵲の目の前では、別塊の
儡鯨の
業の仕事は本来腑分けではなく、<
腑分けは虫達を知らなければならない。
経絡紡ぎは虫と鯨を知り尽くしていなければならない。
しかし虫達
目の前の
「鵲。遅いわ」
「ごめん。瓢」
この老婆を直視し続けるのは敬っていても拷問に近い――と感じつつあった鵲に、虫達から這い出て来た人間が話しかけてくる。
「業
「ふむ、良いだろう。紡ぎは動かしながらじゃな」
*
無言で手順が進んでいく。鯨の手と指を作っているのだ。
試験用
鵲は、瓢がどうにもたまらない。虫飼いの名家と、平民の自分がどうにかなるとは思わないが、
しかし業と瓢。この二人の間に本質的な違いが有るのかと考えてみると、特に無いことにも彼は気付いていた。
見事な
瓢は家から反対されているものの、いつか腑分けを超え、経絡紡ぎに入門するだろう。そう、ある意味で
細かい動作は、業の爛れきった指では不可能だ。だから業が
――まるでこの上なく醜い老婆が、まだ肌に艶が有る少女を操るかのように。
それは――己の肉が腐り果ててもなお
後数ヶ月のうちに、四肢や胴、頭、他全ての部位が揃うだろう。骨組とは全作業の監督である。見習いとはいえ、筋道は大分わかってきた。
だからこそ己の情熱や固執が、既に死んだはずの獣、
だが自分は、この人型の鯨に関わることをやめられない――鵲にとってこれはどうにもならない真実だった。瓢もそうなのだろう。だから
たとえ自分や瓢が、
――――しかし鵲少年は、
NEXT……177 - プリンセスかぐやは何のために戦うのか
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