065 - 劇場版R〇〇mba ~柔らか銀行の逆襲~

「ひいいいいいーーーーーー!!」

 白昼のアーケード街に響き渡る野太い叫び!

 小太りの男が後ずさる!

 男の視線の先、白き犬率いる秘密結社柔らか銀行が尖兵、某コミュニケーションロボットが徒党を組んでにじり寄る!

「やめてくれえええ! センサーで存在を察知して目で追ってこないでくれええええ!!」

「「こんにちは、ぼくのなまえはペッ」」

「うわあああ勝手に話しかけてくるんじゃない! コミュ障を殺す気か!」

 その異様な光景にざわめきを抑えられない住民達!

 さざなみのように広がるパニックが次第に住民を逃げ惑わせる! そう! ネズミオブハーメルン!

「オーッホッホッホ! 怯えなさい逃げなさい!」

 そして白きロボットの海の上、ハヤオミヤザキの描くクライマックスが如く両手を広げて立つのは謎の女!

 逃げ遅れたのは幼き少年!

 母親とはぐれた上に足がもつれ転倒! 不運!

「ひ、ひっ! ママ! ママぁ!」

「あら坊や、迷子になっちゃったのね! ひとりでおうちに帰れないなら私たちの家族にしてあげるわ! 家族が増えれば増えるほどお得になるものね!」

 迫るロボットの大軍! 伸びる謎の女の手! 少年絶体絶命!



 そのときであった。



 ♪デッデデーデーデー デッデデーデーデー デッデデーデーデー デッデデーデー……

 遠くから徐々に近づく軽快で重厚な「ワルキューレの騎行」。

 それを大音量で流しながら現れたのは、アーケードの横幅ぎりぎりに広がった一体の巨大お掃除ロボットであった。

 巨大なそれは時折かわいらしい、それでいてその体躯に似つわしくない電子音を立てながら、地を這いロボットの群れに接近する。


 そして、バリバリと音を立ててロボットたちを貪り始めたのだ。


「な、何……!?」

 女は少年に伸ばした手を引っ込め、そのグロテスクで狂気的な蛮行に言葉を失う。

 そうしている間にも、分厚いパンケーキのようなお掃除ロボットはまるでちりほこりを掻き込むかの如く、自らの業務オーダーを遂行していく。

 ――ロボを、喰ってる。

 住民の誰かが、放心状態で呟いた。

 やがて一個中隊規模だったロボットの群れは食べ残しなく最前列を残すのみとなり、バランスを崩した女がしたたかに地面に叩きつけられた。喰らう側から喰われる側へと転げ落ちた女は逃げようとするが、足を痛めたらしくなかなか立ち上がれない。

「お、お助け……!」

 もはや壁となるロボットもお掃除ロボットの中へと取り込まれ、あとは女だけ。

 己がミンチにされるさまが脳裏を駆け巡り、女は反射的に目をかたくつぶった。


 ――?

 自らの死がなかなか訪れないことに気付き、女が薄目を開ける。

 すると、ふと「ワルキューレの騎行」が止まり、円い機体の中から男が現れた。

 男はつかつかと女に近寄ると、迷いなく右手を差し出した。

「大丈夫か」

「な、何!? 誰よあんた!」

「俺は砥堀とぼり 二留郎にどろう。お前の身柄を拘束するために派遣された」

「はっ、何様のつもり!? 生け捕りにして我が社の機密事項でも聞き出そうってところ!? そんな生き恥晒すくらいなら舌噛み切って――」

「やめろ」

 ぐ、と砥堀と名乗る男が女の顎をわしづかむ。

「心にもないことを言うな。生きたいんだろ。さっきだってとっさに逃げようとしていた。それに」

 目を見開いた女に、砥堀は低く囁いた。

「お前のような綺麗な女は、散って掃除されちゃもったいないだろ」



「それがパパとの馴れ初めだったのよ」

「どこから突っ込んでいいのかわからんわ」


NEXT……066 - 過去の貴方を拭う

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885502865

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