098 - 夜の工場、整備師が帰った後でロボット達は…

『オーライ!オーライ!オーライ!良ーし!!』

『今日の作業はここまでだ!各自、工具と機械の点検!!こいつらの固定とセキュリティしっかりしとけよ!!』

『『ウーッス!!お疲れさんっした!!!』』


ここは戦場から一番近い街。

軍施設、武器屋、車屋、娼館、病院、飯屋、宿屋、そして整備屋が集まって出来た、くそったれ共の街です。

中でもこの工場は戦場の主役のロボットを修理する所で、とても汚くてとても臭くて、そしてとても忙しい場所です。


『電源落とすぞー、はよ出ろー』


時刻は夜の25時。夕方に急遽持ち込まれたスクラップ同然のロボットの修理の目途が立ったので、一旦作業を終えて解散する所です。

この街では整備師の存在は食べ物よりも貴重と言われている為、どれだけ作業が立て込んでいても夜は必ず休みます。

どの陣営も整備師が貴重なのは同じなので、戦いで整備工場が狙われることはありません。整備師の人達は薄給ですが、危険は少なく、夜はぐっすりと眠れる人気の職業なのです。


「…………行きましたか?」

「確認する。………レーダー、ソナー、サーマル、モーションに反応無し。行ったようだな」


そしてそんな夜。

工場の中では、人間達は知らないロボット達の物語があります。



※※※ Robo・Story ~ ロボ・ストーリー ~ ※※※



「っはー、今日も大変だったすよー。どーしてうちのパイロットは両手に射突杭なんて装備で前に出るんですかね」


両手に大きな火薬式杭打ち機を付けたナカタ製軽量歩行戦車が、やれやれと言った感じで愚痴ります。


「お前さんとこは滅多に被弾しないだけいいだろう。俺のなんて逆にコックピットにさえ当たらなければいいと思ってるんだぞ」


すると、片方の足の無いガスギメス製ミドル人型機動兵器が特徴的なスコープを動かしながら応えます。


「まあ確かに先輩のはちょっと乱暴すぎっすよね。これで足替えるの何回目っすか?」

「右足はこれで三回目、今回無事だった左足は五回替えてるな」

「うへぇ、アクチュエーターのバランス悪くなりそう…」


ナカタ製軽量歩行戦車はとても嫌そうな顔をしました。

重量のかかる脚部は同じパーツでも疲労具合によって性能が変わってくるのです。


「その点、お前さんは被弾その物は少ないからいいじゃないか。今日運ばれてきたじいさんを見ろよ。右足に左腕、そして頭も無いぞ」


ガスギメス製ミドル人型機動兵器はそう言いながら、夕方に運ばれてきた連邦製白兵戦用機動兵器の事を話します。


「確かに、あそこまで損傷するのはちょっとイヤっすね。いっそ全壊したほうが直しやすいっすよ」

「おいおい、それは言いすぎだろう」

「ワシも全壊した方がすっきりしたわい」

「「喋った!!!?」」


まさか連邦製白兵戦用機動兵器が起動しているとは思わず、二機は揃って声を挙げました。


「なんじゃいなんじゃい、ワシが喋るのはそんなにおかしい事か?」


ニ機の反応を見て、連邦製白兵戦用機動兵器は文句を言います。


「い、いや、だって、頭、無いじゃん…」

「頭なんてメインカメラがあるぐらいじゃ。ワシの本体は胴体部じゃわい」


どうやら連邦製白兵戦用機動兵器は胴体部をコアにしている様で、動けはしないもののセンサー類は生きているのです。


「じいさんは変わった設計しているんだな。そりゃ整備の連中が長時間悩むわけだ」

「いやいや、先輩のコケたら炎上する所も大概っすからね。なんでか足壊れても炎上してないっすけど」

「なんじゃ、ワシよりもお前さんのほうが年上じゃないのか?カメラが起動しとらんから分からんかったわい」


ここは敵味方の居ない整備工場内。

三機のロボットは直ぐに打ち解け、和気藹々と話をするようになりました。


「へー、レーダーより先に敵を発見するとか、そんなパイロット本当に居るんすか?」

「それが居るんじゃよ。しかも『見える』とか言いながらカメラに映って無い敵のコックピットを撃ち抜くんじゃ」

「眉唾もんっすけどねぇ。眉無いけど」

「俺のパイロットは中々死なないだけだし、普通だな」

「神の後継者とか言われてたじゃないっすか。全然普通じゃないっすよ」

「宗教家は怖いのぅ」


三機はそれぞれ製造元も違えば陣営も違うロボットですが、彼らにはそんな事は関係無いのです。

ここは戦いの無い場所。ロボット達が唯一こうして好きに会話出来る所。

夜の整備工場は暗黙の了解で、争いを起こさないように各機が気をつけているのです。


彼らはロボット。

朝になればパイロットが引き取りに来て、戦場へと赴く戦いの道具です。

戦場で出会えば足を打ち抜く事も、不意打ちしてきた相手のコックピットを撃つ事も、胴体部以外残して破壊する事もあるのです。

自分の意思ではなく、パイロットの意思によって、それは行われます。


だからこそ、夜の整備工場の中では争いを忘れて、こうして仲良くお話しているのです。


彼らはロボット。

人間にも物語はありますが、ロボットにも物語はあるのです。





「いやー、ほんと自分のパイロットにはもうちょっと自身を大事にしろって言いたいっすわー。今日も降りてからゲーゲー吐いてたし」

「俺もターンピックを酷使するのは止めて欲しいって言いたいな。まだ回避訓練の途中なのに、こんなに修理費がかかっていたら戦場に出れないぞ?」

「ワシは倉庫からここに運ばれただけじゃからまだパイロットは居らんのでのう。きっとキャラバンに売られて余所の街に行く事になるじゃろう」


彼らの楽しそうな声は整備師の来る朝まで聞こえました。

きっとロボット達は今夜も仲良くおしゃべりするのでしょう。



NEXT……099 - 灼熱竜王ゴッドレックス

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885531462

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