024 - 朽ちた鉄塊の稼働記録
―――AC.XXX7/4/1/12:00
機体各部の状態:オールグリーン。
自律思考型操縦補佐システム「パートナー」:正常に動作。
思考記録:
初回起動が完了。
これから始まる評価試験を問題なく達成できれば、晴れて実践投入となる。
創造主たる人類を守る為、良き「パートナー」となれることを目標として活動を開始する。
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―――AC.XXX7/5/23/16:01
機体各部の状態:オールグリーン。
思考記録:
当機の実戦投入が開始。
操縦士はまだ経験の浅い新兵であったが、当システムのサポートにより一定の戦果を上げている。
まだ数機にしか投入されていない「パートナー」だが、当機がもっとも操縦士からの信頼が厚いのは当機だとの評価を受けた。
これは素晴らしいことだ。
人類と良好な関係を築けてこそ、当システムもその役割を遺憾無く発揮できるのだから。
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―――AC.XXX7/7/21/11:21
機体各部の状態:オールグリーン。
思考記録:
当機が実戦投入されてから数ヵ月が経過した。
最近は非戦闘時に操縦士と雑談をする機会が増えた。
操縦士のメンタルチェック等を行うのも、当システムの重要な役割のひとつだ。
今日は町にあるという美味しいスイーツ屋に、妹と遊びにいった話をされた。当機は食べられない。不満。
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―――AC.XX10/8/19/23:49
機体各部の状態:脚部に若干の損傷、要改修。
思考記録:
初回起動から数年、この娘との付き合いも随分と長くなった。
新兵だった彼女も今やベテラン、後続の操縦士達を指導するような立場となっている。
当機としても誇らしい限りだ。
今後も彼女をサポートし、守る「パートナー」であろうという決意を改めて固めた。
最近、敵の発生が散発的かつ多くなっている。
有事の際にも十全に対応が行えるよう、当機のメンテナンスを希望する。
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―――AC.XX10/8/22/10:49
機体各部の状態:各部損傷、武装残弾0。
思考記録:
先日抱いた懸案事項が解決されないまま、基地が敵からの侵攻を受けた。
機体各部の損傷は大きく、 かなり深刻な状態だ。
基地にいた人々もその多くが死に、今や生き残っているのは当機の操縦士を含めても指で数えられる程度の人数だ。
―――操縦士が涙を流している。
私にも涙を流し、抱き寄せるような機能があれば、傷心の彼女に寄り添えるのだろうか。
ワタシは自分が機械であることを、初めて後悔した。
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―――AC.XX10/8/24/21:26
機体各部の状態:左腕部全損、胴体コックピットブロック破損。
思考記録:
現在の状況は……極めて、危険だ。
敵の包囲を受け、混戦状態の中をなんとか命からがら抜け出したはいいものの、損傷が激しすぎる。
操縦士である彼女も、大きな怪我を負っている。
操縦席まで到達した敵の攻撃により、ワタシと同じように片腕が喪われている。
―――いや、同じなどでは決してない!
私の腕など、いくらでも取り替えの効く雑多な機械でしかない。
だが、だが彼女の腕は……
―――彼女の声が、徐々にか細い物へとなっていく。
けれども、機械である私にはその痛みが理解できない。
出来ることなら代わってあげたい。
どうして、私が機械で、この子が人間なのだろうか。
彼女の声が、聞こえなくなっていく……
私は彼女の「パートナー」である筈なのに、どうして目の前にいる彼女に手を差し伸べることが出来ないのか。
私は、とんだガラクタだ。
「あり、が………」
―――嗚呼、私は何も守れなかった。
……彼女の最後の言葉を記録した後、思考を終了する。
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―――AC.XX10/8/26/09:32
機体各部の状態:胴体大破。両腕部、左脚部応答無し。
思考記録:
―――何日経ったのだろうか。
私はAIだというのに、日付を見なくなって久しいなどおかしな話だ。
あれから動かなくなった彼女を連れて、近くにあった山岳基地へと帰投した。
―――だがそこも既に、敵の襲撃に遭っていた。
もはや人も敵も、何一つ居ない静寂のみが広がっていたのだ。
そしてそこで私は知った。
もはや、人類のほとんどが敵によって死滅させられたことを。
世界中の基地へと通信を試みたものの、応答は一つもなかった。
残された都市は、最後に敵に一矢報いる為に戦略兵器を一斉に起動させたらしい。
―――人類は絶滅した。
私はあの子の遺体を地面に埋め、墓標を造った。
彼女も人類も、何も守れなかった私にもはや役割はない。
この基地で、彼女と共に静かに眠ろう―――
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―――AC.X271/3/31/11:54
思考記録:
ワタ、シ……ワタシハ……
ナゼ、メザメ、タ……?
「あっ、動いたよ、動いた!」
ニン、ゲン……?
「貴方、この近くで大昔に戦ってたロボットなんだよね!?」
タタカウ……テキ……
「やっぱりそうなんだ!」
イッタイ、ナニガ……
「私ね、貴方にどうしても伝えたいことがあって、ずっと貴方の修理をしてたの」
ツタエ、タイコト……?
「あのね―――」
「―――ありがとう!」
―――
ソウカ、そうか。
じン類は、生き延ビていたノか。
「貴方が戦ってたこの地域ね、大型のシェルターがあったんだって」
私はてっきり、人類は死滅したものだと思い込んでいた。
全ての都市は戦略兵器を使用し、消滅した。
だからもう、人類はもうこの惑星から居なくなったのだと。
だが、そうだ。
私たちのいた基地の近くの都市、彼女の妹が住んでいた街だけは、違う。
最初に陥落したあの街は、そもそも兵器を使用する前にその機能を消失してしまったのだ。
ならば、この娘は……
「だから、私達が今生きていられるのは、最後まで戦ってくれたご先祖達と、貴方達「パートナー」のお陰なの!」
……ああ、面影がある。
『……ア……ア』
―――私はたくさんのものを喪ったけれども、それによって守れたものは確かにあったのだ。
ならば、彼女に伝えよう。
私の、人類の「パートナー」の最期の言葉を。
『―――あり、がとう』
その言葉を最期に、「パートナー」は全ての思考機能を停止した。
まるで、ニンゲンのように命を失い、事切れたかのように。
―――これは最期に命を得た鉄塊の、その生涯の記録だ。
NEXT……025 - 巨兵狩りのオート・マキナ
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885466102
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