147 - ロマンと実用性は紙一重ッッッ!?!?

 放課後の図工室、俺たち『プラモ部』は集まっていた。


 もちろん、ただプラモデルを作る部活などではない。

 ヴァーチャル空間で自分の作ったプラモデルで戦うという新しい競技大会に参加するために俺たちは部活動サークルを立ち上げ、戦ってきた。


 ある時はゲームセンター、ある時は生徒会室、ある時は校長室や職員室。


 たった数人の部員しかいないが、それでもここまで戦い抜いてこれた。

 サークル存続の条件である『県大会優勝』、すぐそこまで迫っている。


 予選を勝ち抜いた俺たちは決勝戦に臨むために、こうして部室に集まったわけだ。


 ――俺の心はいま、すごく燃えている。

 知らない強敵、自分の限界への挑戦、苦労して作り上げた愛機の仕様変更、その昂ぶりを抑える方が無理だと言えよう。


「それはいいけど部長、なんでここなの? ゲームセンターでよくない?」


 ――それはな、盛田君。俺は特訓のために毎日閉店間際までゲームセンターの筐体でオンライン対戦をしていたからだ。そのせいでもう小遣いが無いのだよ。


「それは自業自得なのでは……?」


 ――それはそうなのだが、この胸の高鳴りようを抑えるには機体について熱く語り合うしかないのだ。それしか方法は無い。


「まぁ、オイラはそのつもりだったけどね……積根氏もそのつもりだったんでしょ?」


「ま、まぁ、そうなんだけどさ」


 ――よろしい、それでは決勝に臨む前に愛機の見せ合いっこでもしようじゃあないかっ!!


「相変わらず暑苦しいな」


「まぁまぁ、籍根氏それは言わないお約束ですぞ」


 ――よぉし、では盛田君からだっ!!

「――オイラからぁ? ……別にいいけど」


 盛田君は自らの体型と同じくらい巨大なバックパックから、あれやこれやと物を取り出す。弁当箱、早弁用の弁当箱、スナック入れ、と次々取り出してから、ようやくプラモデルを梱包したハードケースが出てきた。


「じゃあ、オイラの最終決戦仕様はこいつだ!」


 ケースの中にあった機体は以前見たものとは大きく異なる様相になっていた。

 装甲、装甲、装甲、これでもかと厚みが増したシルエットに、表面にはわかりやすいほどの凹凸、そして機体丸ごと隠れそうな巨大なシールド、これまたシールドに負けないくらい大きなバズーカが手に握られている。


 ――こ、これは……まさに、最終決戦装備「フルアーマーハリボテ」じゃないかッッッッ!


 ――いやいや、待て待て、全身に反応爆発装甲リアクティブアーマーなんか着込ませやがって!!

 お前な、それ一撃しか防御性能を発揮出来ないし、飛んできた弾を装甲に仕込んだ爆薬で無力化するってやつだぞ? 近くにいたら爆発に巻き込まれるじゃないかッ!

 ――第一、追加装甲の上にミサイルランチャーなんか付けるなよ!! 被弾したら反応爆発装甲の爆発でランチャーも壊れるだろうが!

 ――それに、その機体にそんなむちゃくちゃな装備は絶対に過積載だろ! 宇宙なら関係ない? いいや、あるね! 質量が増えるんだから加減速に影響出るだろ! 姿勢制御だけじゃなく、重心が変わるから操作特性も大きく狂っちまう!

 ――それに、今のトレンドは『高速空間戦闘』なんだよ!! その重量過多っぷりはいつのトレンドなんだ!?

 ――装甲をバラしたら一帯が不発弾だらけになるじゃないか、支援する俺の身になれッ!!



「部長、そこまでにしておいた方が……」


 積根君が俺の肩を掴んで揺さぶってきた。どうやら熱く語りすぎてしまったらしい、目の前にいる盛田君が真っ白に燃え尽きているのがなによりの証拠だ。


 ――よし、次は積根君のを見せてくれたまえ。


「別にいいけど」


 そう言って、積根君は自分のエナメルバッグからプラモデルを取り出す。

 そして、複数のケースに分けられたパーツを目の前で組み上げていく。


「これが決勝用の機体さ」


 組み立て終わり、机の上に置かれたその機体はまさに異質そのもの、いや常軌を脱したレベルの機体であった。

 ライフル、マシンガン、バズーカにスナイパーライフル、あらゆる重火器と武装をジョイントやハンガーユニットで機体に括りつけた。二足歩行のハリネズミのような様相はまさに、元コ○ンドーを名乗る筋肉ムキムキマッチョマンを彷彿とさせる。

 

 ――こ、これは……最終決戦装備「マルチウェポン全部乗せ」ッッッ!!!!


 ――同時に使用出来るのは二丁しかないのに、どれだけ付けてるんだ! まずどれから使うのか考えてるのか!? 今手に持っているのはビームライフルだけど、そのタイプは連射モードと狙撃モードあるのにわざわざマシンガンとスナイパーライフル持つ必要あるの!?

 ――それだけ装備したら操作する時大変だよね、武装スロットが画面にどれだけ表示されるかわからん! 武器選んでる間は動かないつもりなのか!? 

 ――君は1人で何機倒すつもりなんだ!? それに上半身に装備を付けすぎて、脚に相当負担掛けてるよ!! それ人がやったらギックリ腰より酷いことになるからね!!

 ――それって、マニピュレータ壊されたら使えなくなるよね!? そうなったら仲間に武装貸すつもりなの!? マニピュレータのタイプが合わなかったら使えないこともあるんだよ! そういうとこまで考えた!?

 ――武装に被弾したら誘爆するかもしれないんだよ!? 俺近くにいられないじゃん。どこで援護すればいいのよ!?



 ――……って、あれ?


 積根君も、盛田君と同じように真っ白に燃え尽きていた。

 もはや作画崩壊シーンと言われてもやむなしと言ってもいい惨状に、思わず言葉を失う。


 

 そんな時、俺は思うのだ。


 ――やっぱり、俺の作ったロボこそ最高だ。と――









 












「……部長、決勝は個人戦っす」


 ――あっ、マジで? ごめん忘れてたわ。













 ――なら、なおさらダメだよね? タイマンならもっと機動性と即応性を高めてシンプルな操縦特性にしてさ、もっと俺の機体みたいに徹底的な軽量化とか、腕部側面に機関砲付けるとかさ、そういうことするべきだと思うんですよ。

 ――あと、アクチュエーター強化して運動性を高めておけば、格闘戦のモーションが早くなって有利になるし、瞬発力も上がるから総合的に戦闘力が――




「「だから部長のプラモは誰も動かせないんだよ!!」」


NEXT……148 - カレーを作るよ!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885587272

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