143 - 天の光は全て星
「今すぐ出してください! 俺には、あいつらを見殺しにすることなんて、できません!」
「そうは言っても作戦だからさ。もう少しの辛抱だから、な?」
「でも!」
「おやっさん、なんとか言ってくださいよ!」
おやっさんは、黙ってパイプをふかしている。
こんなに早い局面で、切り札を出すわけにはいかないのだ。
全宇宙の命がかかった戦いなのだ。仲間を助けに行きたい気持ちは分かるが、勝手な行動は許されない。
「作戦については、よくわかってます。でも、仲間を犠牲にするようなことは、俺にはやっぱりできないんです!」
「いつまでもガキみたいなこと言うんじゃない! お前はもう、ここのエースなんだ。こんなところで、お前まで失うわけにはいかないんだよ!」
おやっさん、ガツンと言ってやってくださいよ。しかし振り向くと、おやっさんはどこかへ消えていた。
「あれ? おやっさん?」
『何やってる。早くしろ』
ガレージのスピーカーから、おやっさんの声が聞こえる。
『今すぐ出せって言うくらいだ。当然準備はできてるんだろうな』
「は、はい!」
少年が、ヘルメットを掴んでロボに向かって走っていく。
彼が乗り込むのは宇宙最後の希望、炎の神の名を冠した我らの切り札。超銀河制圧兵器カンティードだ。
この船が戦闘区域に入るまでに、カンティードを最終決戦仕様に修理、改修しなければいけなかったのに、おやっさんの腕をもってしても万全の状態にはできなかった。一応戦闘はできるが、そんな状態で送り出すなんて、おやっさんは何を考えているのだろう。
カンティードが、発着点まで運ばれていく。
『タカヤ、そいつは万全な状態じゃない。限界性能を引き出した場合は10分しか持たんことを、よく覚えておけ』
『わかりました。わがまま言ってすみません、おやっさん』
『……開けるぞ』
けたたましいサイレンと共にハッチが開き、カンティードがリフトアップされる。
『第七ゲート、何をしている! 第七ゲート!』
『艦長すみません! やっぱ俺、みんなを見捨てて掴む未来なんて嫌なんですよ。だから俺、行きます!』
『タカヤくんやめろ! まだカンティードは完全じゃないぞ!』
『現状10分は動かせます!』
『しかし……』
艦長の返事を待たず、カンティードは船を離れていく。重く加速をすると、その姿は一瞬で遠ざかり、戦火の中の1つの光となった。
それを見送ると、おやっさんは部屋に戻ってきた。
「なんて事してくれるんですか! これでもしカンティードが負けたら、おやっさん責任とれるんですか!」
「うるせぇな。てめぇが一番アレをいじくったんだ。アレの性能がどんなもんで、敵さんと戦ったらどうなるかなんて全部わかってんだよ」
威勢良く答えた後に、手袋をはめながら、ボソリと呟く。
「多分アレは勝てないだろう」
「ならどうして!」
ならどうして行かせたのだ。
「パイロットのわがままをなんとかすんのが、メカニックの仕事だろうが。お前、俺が何も用意せずに、あいつを出したと思ってんのか?」
早く来い、時間ねぇぞ。
おやっさんに続いて、機体の出払ったガレージに向かう。
「そういえばお前にも見せてなかったな」
ガレージの端にある、カバーの掛かった機体を指す。
「こいつは、俺が昔乗ってた機体だ」
おやっさんが足元のレバーを引くと、カバーが外れて中の燃えるように紅い機体が現れる。
「ファイアスターター……」
第一次銀河大戦で、かつてエースパイロットだったおやっさんの愛機。たった1機であちこちの星を制圧したと言う伝説を持つ。そんなものが、なぜここに。
「これ、おやっさんの……これをどうするんですか」
「お前まだわからねぇか。戻ってきたアイツを乗せるんだよ」
急ぐぞ。お前はガス入れろ。俺はコクピットの方をいじる。早くしろ。ガス入れ終わったら次だ。
*
戻ってきたカンティードは、見るも無残な様子だった。よく着艦できたものだ。
タカヤがドクターと怒鳴りあっている声が聞こえてきた。
「貴方の体は、これ以上戦える状態じゃない! 仲間たちは助かったんだから、もういいじゃない!」
「ダメだ! あそこに、アイツの中枢に、カズミがいる! 俺は彼女を助けなきゃならないんだ!」
「活かせられません! あそこは、もうじき反陽子縮退爆弾で消滅するのよ!」
「今から行けば間に合う!」
「そんな間に合うような機体、あるわけないでしょう!」
「あるって言ったら、あんた行かせてくれんのかい?」
「おやっさん!」
「急ぎな。足はもう用意してある。あとは突っ走るだけだ」
おやっさんの突然の介入に、ドクターが少したじろぐ。
「コウイチロウさん、困りますよ! タカヤの体はもう……」
「知ったことか。 そんなことあとでなんとかすりゃ良いんだよ」
来い。急げ。それだけ言っておやっさんは、タカヤと共にガレージに戻ってきた。
タカヤが、ガレージの機体を見て驚く。
「これは……」
「乗れ」
コクピットに座らせて、おやっさんはタカヤの顔を両手でグイッと掴んで目を合わせた。
「いいか。こいつはお前が今まで乗ってきたヤツの中でも、とびきりピーキーだ。でもな、お前ならこいつを乗りこなせると信じている」
タカヤの顔から手を離すと、おやっさんはネックレスを外してタカヤの首にかけた。
「これは俺が、若い頃女からもらったプレゼントだ。お守りがわりに持って行け」
「そんな大切なもの、俺が戻ってこれなかったら、その人に怒られますよ」
「怒られるか……」
おやっさんは、乾いた笑顔をこぼすと言った。
「その女とはな、とっくの昔に会わなくなったよ。俺がダセェばっかりにな。それより、戻ってこれなかったらだと? 何言ってんだお前。
戻ってこれないはずがないだろ。こいつはあの戦争から俺を生きて返した機体だぞ。それに、お前が乗ってるだろ」
「おやっさん……」
「話が長くなっちまったな。さあ、行ってこい」
ぽん、とタカヤの頭に優しく触れると、コクピット内のスイッチを押す。
ハッチが閉まり、マシンのエンジンが唸りをあげる。
凄まじい轟音と共に、タカヤは宇宙の彼方めがけて吹き飛んで行った。
NEXT……144 - アンドロイド惑星
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885583960
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