006 - ”彼”の話をしよう
とあるスーパーロボットの話をしよう。
でも、その前に少し言っておきたいことがある。
君たちが期待しているのはスーパーロボットが戦い、敵を倒す話だと思う。
格好のいいロボットの姿だ。空を飛び、剣を振るい、敵を倒す姿を君は思い描いているだろう?
……生憎だけれども、これからするのは、みっともないスーパーロボットの話だ。
町はずれの小さい倉庫があった。
壊れた家電や用途不明な機械が、大きな倉庫の周りに置かれた場所。幼かった僕らはそこを“ゴミ倉庫”と呼んでいた。
よくいじめっ子に泣かされた時、僕はそこに行って泣いていた。
そこに偏屈な老人がいたけど、流石に泣いている少年には優しかった。倉庫の壁に背中を預け、幼い僕はしくしくと泣いていた。
とにかく、昔は勉強も運動もうまく行かなくって、みんなをがっかりさせていた。
だから、いじめられていたんだと思う。
もちろん、いじめっ子に何度も楯突いたけど、歯が立たなかった。
家でいじめのことを相談しても、両親は何もしてくれなかった。先生に話してもダメだった。
それどころか、余計に酷くなっていく。
どこにも居場所が無くて、僕は孤独だった。
そんな時、彼と出会った。
学校の掃除のロッカーに押し込まれ、僕は夜まで放置された。
用務員さんが僕の泣き声に気付いてくれるまで、そのまま。出してくれた後、僕は家に夜の街を一心不乱に駆け抜けて、ゴミ倉庫の前へ。
ずっと締め切られていたんだけれども、その時は倉庫の扉が開いていた。中に入って僕は泣こうとした。いじめられて傷ついていた心を癒すため。
そうしたら、大きな車を見つけた。
その車が――当時、はやっていたロボットアニメに出てくるロボットに似ていて、僕は無性に乗りたくなった。危ないのも顧みず、よじ登った。これがロボットなら、今の辛い状況を何とかしてくれる。いじめっこたちを殺すことができるって、邪なことを考えて彼のパイロットシートに座った。
わかったんだと思う。僕の気持ち。
だって、彼は車から人型に変形して僕を外へつまみ出し、諭してくれたもの。
「君がその子をやっつけてしまうと、その子のご両親を悲しませることになる。いじめっこ達にも家族はいる。君がそのいじめっこを殺すことによって、いじめっこの家族を悲しませてしまう。だからやめるんだ」
いじめっこ達はムカついたけど、いじめっこたちのご両親が泣くのは良くない。
ここは我慢して、彼の言葉を鵜呑みにすることを決めた。
でも、その代わり僕は憧れのスーパーロボットと交流するができるようになった。
毎日のように僕は彼の元に通い、楽しそうに今日あったことを話す。
辛いことはたくさんあったけど、彼のおかげで頑張れた。スーパーロボットと話をすることができる、それだけでよかったから。
ある時、僕はこんな質問をした。
「武器とか何にもないけど、何で戦うの?」
「僕は戦わないから何も武器はいらないんだ」
こう答えた後、彼は言った。ただのロボットであると。
そのもそのはず、ゾーイという敵を失い、彼は武装を外され、合体メカは全部破棄された。その時の僕が言う“みんな”を救える力を彼は持っていなかった。
また、こんな質問も行った。
「何でスーパーロボットなのに戦わないの?」
「戦って来る人を傷つけたくないんだ」
悪いやつにも、大切に思う人が必ずいる。悪いやつをやっつけて、その悪いやつを大切だと思っているやつが哀しむがいる。
それが嫌だから、戦わないって。
当時の僕は、スーパーロボットなのに変だと思っていた。
そう言えば、こんな約束をしたっけ? 僕がピンチになった時、彼が助けにきてくれるという約束だ。
でも、この約束は守ってくれなかった。
彼にも事情はあった。けれども、その時の僕は知らなかった。
雨の日、僕はいじめっ子たちに追いかけられていた。絶体絶命のピンチだった。僕は彼がいるゴミ倉庫へと命からがら逃げてきた。
追い詰められて、僕は叫んだ。彼の名前……。
けれども彼は助けてくれなかった。大きな車のまま、僕が殴られるのを見続けていた。何度も何度も彼に助けを求めたけど、彼は――弱虫だった。じっとしていて何もしてくれなかった。
全部が終わった時、人の形を取った彼に対して僕は問い詰めた。
ウソつきだと。
でも、この後――ゴミ倉庫を守っているあの老人、彼の開発者から聞かされた。
彼が僕を助けられなかった理由を。
それを聞いて僕は何て事をしたんだと悔やんだ。
彼は人を傷つけたことがあった。彼はそのトラウマに苦しめられ、何もできなかった。
その日、一筋の流星は流れた。
正体は、宇宙の果てからやって来た直径8メートルほどの岩。大気に触れる前、人工衛星とぶつかった。その人工衛星は、ゆっくりと僕が住む街へ降下して行った。
僕が倉庫に行かなくなってから、10日後のことだった。
急に隕石が降ってくると聞き、街はてんやわんやな状態。
体育館で人工衛星が落ちて来るのを待っている時、ジェットサウンドを聞いた。
何となく誰かわかったから、教師の制止を振り切って、僕は体育館の外へ駆け出す。
グラウンドには彼が立っていた。
武装も何もなくってみっともない格好だったけど、僕は――。
その姿を見て、泣き出しそうになった。
彼が何をしようとしていたか、わかっていたから。
彼が持っているのは――胸の中にある勇気、ただそれだけ。
なけなしの勇気をふりしぼるのだと言った後、彼は彼にしかできないことをやってのけた。
空気を切り裂き、音の速さを超え、彼は人工衛星を――自分の体を砕いて受け止めた。
上空5000メートル、"彼"は光になった。
僕は空を見上げ、その様子を見続けた。
それから、彼のことを絶対に忘れないと胸に誓った。
彼の話はアニメにも漫画にもなることはなかった。
15年前、その日のTVニュースでは、人工衛星は落下途中で燃え尽きたと報道された。
それから、話題になることはなく、この事件のことを人々は忘れて行った。
けれども僕は忘れない。
彼が振り絞ったなけなしの勇気を。
だから――彼がそうしたように、僕は誰かのヒーローになるため、レスキュー隊員をやっている。
NEXT……007 - 個性ロボ ヒューマイン
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885455567
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