060 - 地の底にて

 俺はいま、地球のコアと一つになっていた。



 かつて俺の体を形作っていた超合金でさえ、ここでは一瞬にして融かされる。

 じっさい、とうの昔に――それがいつからだったかも忘れたが――俺はこの惑星ほしと融け合っているのだ。


 それからずっと。


 ただひとつのことを考えていた。



 ――――より強力な体を作らなくては、と。




 やがて、いずれ、間もなく、この惑星に危機が迫るのだ。

 漠然とした災厄じゃない。


 敵だ。


 遥かかなた、別の宇宙からやってくる敵に対抗するために、一刻も早く。



 この地球おれに、進化を促さなくてはならないのだ!



 *



 ひたすらに瞑想のような自転を続けて己を練り上げる日々が続く。


 そんな中、不意に在りし日のことを思い返した。



 俺がまだ、小さな機械の身体で戦っていた頃のことだ。


 俺には友が居た。

 戦友なんて乾いたものじゃない。無条件の絆を繋いだ、親友だ。


 あいつは、俺と違って生身の身体で。

 そうだ。かつて地球おれのもとに数多く生きていた人間ヒトだった。


 あいつがいつだったか、言ったんだ。



「君はすごいことができるんだね! その両腕の――で」



 あの時の俺はちっぽけで、がむしゃらに今日を生きることしか考えていなかったから、友の言葉を何の気なしに聞き流していた。


 あの頃の俺は考えもしなかったのだ。


 なぜ、俺は鋼鉄てつの身体をもって生まれたのか。

 なぜ、俺は人間ひとのごとく思い巡らす心を持っているのか。


 なぜ、俺の腕には――――!



 今や形らしい形のない俺の身体。かつての俺の身体を思い起こす。


 その腕には、俺が最も恃みにする“武器ちから”があった。


 そのことに。そのちからが、今も確かに俺に備わっていることに、気づいたとき。




 ――なるほど、、だ!




 昔も、今も、これからも、俺が振るうべき力は、これだ! これじゃないか!



 *



 今日、俺はようやく真理を得た。



 惑星は回っている。

 自転と公転。いずれも延々と連続される回転運動だ。


 今日まで俺がひたすら繰り返してきた、惑星ほしの生命活動と呼ぶべき、この行為。



 この回転を“変える”ことで、地球おれは進化を始めるだろう!



 すなわち、



 ただの回転から、少しずつ上昇を、あるいは下降を続ける螺旋の回転へ移行することで、生命体としての惑星はそれ自体が進化を始める。


 進化のスピードは、わずかずつかもしれない。


 だが、確実に、いずれ俺は奴らに匹敵するだろう。


 確実に、やがて俺は奴らを凌駕するだろう!



 惑星と同じ巨体サイズの、強固なる機械の身体ボディ


 自ら再生し、あらゆるものを取り込み発展成長を続ける超越生命機関システム


 障害となるものを撃退し、駆逐し、絶滅し得る全身の武装パワー



 万物を破壊し、空間を支配する螺旋回転の根源――――!




 目指せ。そのような存在を目指せ!


 無限にメビウス! 夢幻にメビウス! 無間にメビウス




 無間の螺旋メビウス




 ああ、そうだ!


 つまり、そういうものだったのだ。




 ――――“ドリル”とは、進化する力なのだ!




 始めよう、惑星の進化を。


 備えよう、宇宙同士の闘争に。


 見据えよう、俺のドリルがうがち、つらぬき、ほりすすむ、終わりなき果てを。






 そして!


NEXT……061 - ラウルバーシュの名のもとに

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885491254

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