111 - ステラをねらえ!

8月は、おばあちゃんの家に遊びに行くことになっている。

山のすぐ側にあるおばあちゃんの家は、ぼくの家の近くではぜったいにできないことをたくさん出来る。

だからぼくは、おばあちゃんの家が大好きだ。


おばちゃんの家に来て少し経ったある日。ぼくは近くの山を探検することにした。

お母さんとおばあちゃんが作ってくれた立派なお弁当と、絆創膏、懐中電灯、軍手、ノート、えんぴつ、使い捨てのカメラをリュックにぎゅうぎゅうつめて。

濃いめのカルピスに、氷をたくさん入れて冷やして水筒に入れて、ぼくは探検に出かけたのだった。


「夕飯までには戻ってくるのよ」


お母さんと指切りの約束をして、


「お母さんには内緒だぞ」


お父さんからもらったアメをなめながら、山をずんずん進んだ。

変な形の木とか、大きな岩はあったけど、思っていたよりもふつうの山だ。

少しがっかりしながら、山のてっぺんにある広場で、水筒のカルピスを飲んだ。

ぼんやりと山から見える村を眺めていると、広場から少し下ったところに何かがあるのに気づいた。


取っ手の着いたマンホール?


柵の外にあったから、ほんとは入ったらいけない場所だけど、入ったらいけないところに行くのが探検なんだと思い直した。

道の脇にある低い柵を乗りこえて、ぼくはマンホールに手ををかけた。

思いっきり取っ手を引っ張ったら、思ったよりかんたんに開いてしまって、しりもちをつく。

中を覗き込むと、ハシゴが付いているのがわかった。懐中電灯をカバンから出して、ハシゴの下を照らすと、マンホールの中は思ったよりも浅いことがわかった。

やっと普通じゃない物が見つかって、ぼくはワクワクしていた。懐中電灯をカバンにしまって、マンホールの中へ、ゆっくりと入って行った。


ハシゴを下りた先はせまい通路になっており、つきあたりにドアが見えた。

悪の組織の秘密基地かもしれない。宇宙人の家かもしれない。山の神さまが中にいるかもしれない。

いろんな事が頭の中をぐるぐるしてたけど、勇気を出してドアを開けた。


ドアの中は信じられないくらい広く、望遠鏡をバスくらい大きくしたような機械があった。


「誰だ!」


機械の向こうから男の人の大きな声が響いた。


「ごめんなさい!」


反射的に謝るぼくに向かって、機械の向こうから男の人が歩いてくる。でも、この人は人じゃないっぽい?


「あァ、突然怒鳴ってごめんな。坊主、今何時だ?」


ホコリと、黒い油にまみれたロボットのおじさんは、少し優しい声でぼくに聞いて来た。


「今?えーと……1時ちょうどだけど」


「そうか。今は1時か。だいぶズレちまってんな」


お腹を開いて、時計を調節しながらブツブツ言う。


「ここに来たのも何かの縁だ。坊主、ちょっと見て行くか?」


「いいの!?」


おじさんがあっちこっちのネジを締めたり緩めたりするのを見せてもらいながら、ぼくのことを話す。夏休みだからおばあちゃんの家に遊びに来ていること、探検してたらここにたどり着いたこと。

ぼくの話を聞きながら、おじさんもこの機械と自分について話してくれる。この機械は、ある時のために作られたこと、おじさんはこの機械を整備するためにここにいること、近々この機械を動かすことになること。


「おじさんはな、その時のために作られたんだ。でも時計がズレてたせいで、思ってたよりその時が来そうだ。だから坊主、しばらくここに来て俺のことを手伝ってくれないか?」


「もちろん! いいよ!」


それから、毎日おじさんの所に通った。手伝うとは言ったものの、おじさんはぼくに何を頼むわけでもなく、ぼくとおしゃべりしながら機械のネジをいじる。


「おい坊主、今何時だ?」


そうおじさんが言ったら、もう帰る時間。


「今6時7分だよ」


「そうか。7分もズレてやがる」


おじさんが時計を調節したら、お別れ。


「今日はもう帰れ。心配されるぞ」


「うん。また明日ね」



「坊主、今何時だ?」


いつも通り時間を聞かれる。


「今は……5時10分だよ」


「そうか。今日は坊主に頼みがあるんだ」


いつもとはおじさんの様子がちがって少し不安になる。


「なあに?」


「今から6時間後の11時に、ここに来れるか? 勝負の日だ」


11時なんて、今まで起きていられたことがないし、夜中に外に出るなんて、許してもらえないだろう。

でも、おじさんの初めてのお願いのためなら、お父さんに怒られたとしても、ないしょでここに来ても良い。そう思った。


「わかった! おじさんのお願いだもん。こっそりここに来るよ」


「ありがとう。待ってるぞ」


家に帰って、晩ごはんを食べている間ずっと、おじさんのお願いが何か考えていた。



夜中、窓からこっそり外に出て、おじさんの所へ行った。

いつも通りハシゴを下り、ドアを開けると、いつもとは違い部屋の天井が開き、機械が空へ向けられていた。


「おう坊主、来たな。ここに座れ」


おじさんは、機械の側に立っていた。

座席に座ってレンズをのぞきこむと、満点の星空が見えた。


「あと少ししたら、流星群がやって来る。それの21番目の流れ星を撃ち落とせ。俺とこの機械は、その為に作られたんだ」


どうしてそんなことをするのか全くわからなかったが、おじさんがそう言うなら頑張ろうと思った。


「でも、どうしてぼくに頼むの?おじさんが自分でやったほうがいいんじゃないの?」


「実は俺な、目が見えないんだよ。ちょっと前にカメラが壊れちまってな」


だから時間を合わせるために、ぼくに聞いていたのか。


「来るぞ!」


おじさんの声にハッとして、レンズを覗く。

次々と流れ星が空から現れ、レンズを通り過ぎていく。流星の中でもひときわ明るいものを、機械が捉えて追う。あれだ。

外したらどうしよう。おじさんが一生懸命作ったのに、当たらなかったらどうしよう。

焦るぼくの肩に、おじさんの手が優しく置かれる。


「大丈夫だ。落ち着いて、よぉく狙え」


肩に入った力がスッと抜けた。落ち着いて、レンズ越しに流星を見据えると、左右に揺れる流星の揺れが一瞬収まって、レンズの中心で止まる。


いまだ!


流星めがけて、トリガーを引く。



NEXT……112 - Milliaと幾万の記録

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885537934

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