121 - 最強無敵のバージンロード〜奥さまはアンドロイド〜
奥さまの名前は"タバサ"、旦那さまの名前は"ダーリン"。
ごく普通の二人は、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。
ただひとつ違っていたのは、奥さまはアンドロイドだったのです。
静かな森の中にぽつんと建っている小さな教会からリンゴン、リンゴーンと鳴る鐘の音。小鳥はさえずり、今日の良き日を祝おうとしているかのようでした。
キュイキュイと教会内に駆動音を響かせてバージンロードの上を移動する、純白のアーマーを纏った花嫁さま。腰からスカートにかけての鋼鉄が織りなすドレスがとってもよくお似合いです。半透明のベールを思わせるヘッドギアの向こうで、真っ直ぐに見つめる美しいアイカメラが捉えたものは、愛しい愛しい
小さな教会にはふたりぼっちでした。祝ってくれる家族やベールを持ってくれるロボットたちもいません。たったふたりだけの結婚式を、タバサとダーリンは選びました。けれど、ふたりは幸せの頂きにいたのです。
「ああ……タバサ、君はとっても綺麗だ」
「マスター、ありがとうございます。マスターも、その白い
ダーリンがそっとヘッドギアのサイドにあるスイッチを押すと、ベールがすばやくヘッドの上に持ち上がり、タバサのフェイスがあらわになりました。
くりん、とダーリンだけを見つめる藍色のアイカメラがゆっくりと動き、ダーリンの表情を精緻に分析してゆきます。
「マスター、心拍の上昇・及び体温の変化が見られます。迅速に休息をとることを推奨します」
「違うよ、タバサ。君があまりに魅力的で、すこし興奮しているんだ」
「承知いたしました。それでは『結婚式』の続行を」
タバサの合成音声に対しゆっくりとうなずき、ダーリンはそっとタバサの胸部装甲の中心に手のひらを添えました。
「
ブォン、と重い音を立ててタバサの、いいえ、T04-BS1999の精神中枢である、ガゼル・ハートが収められている心室装甲が、ゆっくりと開きます。
「これから、きみのガゼル・ハートに触れる。強化スーツを着ているから俺は問題ないと思うが、もしもタバサ自身に異常が見られたら教えてくれ。すぐに取りやめるから」
「承知いたしました。この儀式により、私はダーリンを生涯の伴侶、マスターとし、あなたが病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、伴侶として愛し、敬い、慈しみ、守り抜くことを、ここに誓います」
「そして俺は、タバサを生涯の伴侶、マスターとして、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、タバサを伴侶として愛し、敬い、慈しみ、守り抜くことを、ここに誓う」
ゆっくりと、ダーリンの指先がタバサのガゼル・ハートへと近づき、そっと触れました。途端、大きな桃色の閃光が激しく走ります。ダーリンは大きく仰け反り、苦しげな叫び声をあげました。
「ぐ、ぁああああああッ!!!!」
「ガゼル・ハートの熱量、上昇中。刻印完了まで、あと10秒」
「愛してる、タバサ、世界の誰より、何よりもッ……!」
「刻印完了まで、あと5秒」
強化スーツを着込んだダーリンは、吹き飛ばされそうな熱量の前にしても、必死に地面を踏みしめ、タバサから目を離すことはありません。これが俺の愛の証であると言わんばかりです。
「刻印完了まで、3、2、1……刻印、完了しました。予定の1.75倍の熱量を確認しましたが、問題は発生しておりません」
「っは、はぁっ、は、よ、かっ、た……」
ガシャン、とその場に座り込むダーリン。タバサがそっと手を差し伸べます。
「あなたに感謝を、マスター。私という存在を、この世に生み出し、そして今この瞬間まで、守り、側にいてくれたことを」
「……タバサ……」
ドカァァァァアアアン!!!!
突如、教会の外から爆破音が次々と鳴り響きました。教会の鐘を聞きつけたロボット排除急進派が、ふたりを亡き者にせんと押し寄せているのです。
ふたりは、世界のお尋ね者でした。
AIが発達し人と遜色なく関わることができるようになったというのに、そのことに危機感を抱いた者達が、もともとこの世界には存在していました。
そして意思のあるロボットを全てこの世から消し去り、人間だけが世界を支配すべきだという考えに囚われた大国に、どの国も逆らうことができなかったのです。
「ああ、時間の問題だとは思っていたが……思ったよりも早かったな。タバサ、建物の外の反応は?」
「高エネルギー体多数。特殊薬液を投与された改造体と推測されます。後方に重火器を装備した一個小隊ほどの反応を確認。如何されますか、マスター」
ガシン、ガシン、とドレスを模した白い機体が高速で変形し、迎撃態勢を整えるタバサ。最新鋭のアンドロイドとしてダーリンに生み出された
「迎え撃とう、タバサ。俺と君のハネムーンを邪魔されちゃあたまらない。君はどこに行きたい?」
「その質問の優先順位は非常に低いと存じます」
「つれないなあ、夫婦だっていうのに。それじゃ、軽くひねって月にでも行こうか」
「承知しました。戦闘終了後、月面へ向かうための燃料を温存します。命令を、ダーリン。どこまでもあなたについて行きます」
にこり、とダーリンは微笑みました。人間とアンドロイドという壁など感じません。確かに、ふたりの間には愛が存在しているのです。
だからこそダーリンは力の限り、高らかに叫びます。神など信じていなくても、信じるものはここに、熱い胸に宿っているのだと、全身全霊で世界に思い知らせるために。
「タバサ!!急速発進!!出力旋回!!
これが、俺たちの、バージンロードだ!!」
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https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885554382
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