096 - 東京都心のメルカバー
怪獣が、怪物が悪魔が、東京を喰らって世界を砕いている。
『AaaaaAaaaaaaA!』
海悪魔は、海蛇の様に細長く、饅鰻の様な歯を光らせ、肌の質感は海鼠の様で、背中には棘の様にびっしりと珊瑚が。提灯鮟鱇の雌に雄が噛り付いたかの様に、皮膚から大量の尾鰭が生えており、それが海牛の様に這って進む。きっと誰もが、醜悪で美しいと思うだろう。
「……来たか、
蓮は呟く。20XX年X月X日X時X分、これは予言された悪魔の襲来であった。
前もって用意された人型兵器に搭乗した蓮の視界には、無数の同型機が並んでいる。曰く60機。東京の摩天楼ほどの大きさの兵器が、6機1組で、10組。悪魔を滅ぼさんと出撃するのだ。
「教祖様の言った通りになった……!」
新興宗教ラァ・ヤレアッハ。数年前、東京での悪魔の復活を予言した教祖様が設立したものである。神からの、悪魔襲来の報せを受けた教祖様は、様々な手段で同志を、地位を、金を集め、悪魔に対抗する手段を手に入れた。教祖様のお陰で、人類は悪魔と戦う用意が出来ているのである。
通信が入る。一斉通信、教祖様からのお言葉だった。
『おお、我が子たちよ。諸君らを戦地に送り込む事は、先を生きる
海悪魔・フォルネウス。目の前にいる海の恐怖の権化に向かい、決戦兵器・
『ブロッサム6、準備はいいか』
「ブロッサム6からブロッサム1へ、問題ありません」
『了解。全員問題ない様だな。では行くぞ……ブロッサム隊、出撃!』
「
地下基地からメルカバーズの、60機全機が発進し、
『我らブロッサム部隊は弱点を急襲するッ! 危険だが……神と教祖様が見守っておられる! 行くぞッ!』
ブロッサム隊のメルカバー達が横腹に突っ込む。三本の
上空からの映像がサブモニターに流れる。
『無事かッ』
隊長の、悲鳴とも金切り声ともつかぬ音。自身の戦闘に必死になって指示も出せていなかった。
——無理も無い、私ならばもっと下手だろう。
蓮は、狂信者は、そう思ってしまうのだ。全ては、教祖様が決めた事であるから。
「勿論ですッ!」
部隊全員の声が重なる。隊長は満足気に。
『ヨォォォシッ! どんどん行くぞッ! 我々には……教祖様がぁ!』
「うぉぉッ!」
熱気が溢れる。そして蓮は歓喜するのだ。
——今ッ! 教祖様の元に……人類は一つになっている!
その様に、考えるのだ。悪魔が弱りだしたこの時点で、メルカバーズは半数まで撃破されていた。誰にも耳にも入る事なく。
*****
「教祖様、お食事を」
「ご苦労。下がれ」
「はっ」
教祖はモニターを見る。大海魔が、無数のメルカバーと戦っていた。
「足止めは順調らしいなァ、教祖様。今は東京で先頭を見守ってる設定なんだろ?」
「その通りだよ大統領。衛星粒子砲の準備はまだか?」
若々しい、大統領と呼ばれた男が答える。
「悪人だなァ。安心しろ、たった今終わった。よくも教祖なんぞと名乗れたもんだ。いや、本当に予言を受けたところまでは教祖か」
「
「そうかよ。じゃ、準備も出来たし打つぜ」
「結構」
「衛星粒子砲……発射! 東京を薙ぎ払え!」
大統領は、あらかじめ通信を開いておいた、別の場所の人間に指示を出す。おそらく会話も聞かれているだろうが問題はない。食事の場にて、大量虐殺は決定された。
*****
『……粒子砲……射! 東……薙ぎ払え!』
必死になって戦っていた蓮は、そんな声を聞いた。教祖様の「結構」という声の後にだ。回避の衝撃か、通信回線がバグを起こしている。
「しかも今のは……合衆国の大統領の声だ。今は合衆国にいるはずの……」
きぃい、と音がする。
「教祖様が我々を裏切った……いや、有り得ないッ!」
——教祖様は東京の為、力を貸し与えてくださったのだ!
「私は、戦うッ!」
メルカバーの刀のうち二つをバズーカとマシンガンに持ち変える。そして突進。うねる触手をマシンガンで捌き、叩き落とす。それはまるで悪魔の様に。神の戦車が悪魔の様に。切って撃って切って撃って壊し続ける。そして
「これで……ど、う?」
突如として、光の柱が、
——あれ……私以外のメルカバーは何処へ——?
*****
どれほど眠っただろうか、どれほどたっただろうか。蓮は意識を覚醒させる。
「……東京はッ!」
真っ暗なメルカバーのコックピットの中に、蓮はいる。
「生きてる……ということは」
——東京は、助かったか!
蓮は歓喜する。あの光は神の光だったのだ。
「それなら、まず此処から出よう……」
ハッチを押す。が、いくら押しても開かない。
「何かの下敷きになってるのか……?」
蓮はメルカバーを再起動する。外の風景を映し出すはずのモニターは……暗いままだ。ただし微弱な光を発している。
「下敷き……いやッ! 真逆……
蓮は操作レバーを動かし、悪魔と思われるものの下から這い出した。蓮の目に映った光景は——
「何も、ない? 焼け野原?」
東京は、無かった。ただ、悪魔の亡骸を監視する戦車があるのみだ。海悪魔とともに、神の光は東京をも滅ぼしたのだ。偶然海悪魔の下敷きになった蓮だけが、現地で唯一助かったのだ。そして。
這い上がったメルカバーに、戦車の砲塔が向けられる。
「は?」
蓮は驚いた顔をしながらも悟った。戦闘中の教祖の言葉、直後の光、そして東京の消失。教祖は、東京を犠牲に世界を救ったのだ。蓮たちはその足止めといったところか。
「おのれ……教祖」
——教祖に、復讐を。
信仰心を復讐の炎に変えた悪魔は、戦車を蹴散らし猛スピードで走り出した。
NEXT……097 - 終末にはまだはやい
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885531422
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます