168 - [TiER]
アランが自殺した。
靴紐の結ばれていないボロボロのスニーカー、無精髭にぼさぼさの髪。誰もが一目見て、真性のバカかそこらへんのホームレスかと思うことだろう。だから度々ムカついた。その少年のような無垢な眼差しと、常に微笑む真っ白な歯の間から溢れ出る、啓蒙的な言葉。アラン・タニヤマは天才だった。AI開発者でありながら、まるで映画監督かゲームクリエイターのような。麦畑でアシッドを服用しバッハを指揮するような。
かたや私はいつも制服姿、無表情で無愛想、実質主席を獲り、「女のくせに」が接頭辞。
そんな彼は私の影かのように対照的でありながら、いつもそばに居たことを離れて初めて知ったのだ。
星々の海の向こうのフロンティアで、今も諦めの悪い大人たちが争っている。そして私たちの後ろ、地球では往生際の悪い老人たちが生存競争を行っている。その間で子どもたちはいつも、未来のない中で年上たちのためにまるでロボットか家畜のごとく働かされるのだった。
衛星タイタン立アカデミーで、アランと
彼はどこにいってしまったのだろう。
だが私はいつの間にか、アランの論文や講演録を辿り、彼のあのアイディアを浚い、無理矢理にでも形にしようとしている自分がいる。それはAIと、人間共通の深層意識界の関連性を見出し、証明する試み。自分の成功など興味はなかった。女性研究者として自分の名前でこれを完成させれば、あらゆる大人や老人が喝采を与えるだろう。
イゼル・ホープスヴィル。そんな名前はどうでもいい。同じ月面戦争を経験した世代として何よりも平和と結束、人間の叡智の探求を夢見た彼、私たち子どもたちの未来のために。アラン・タニヤマの名前が残るならば、私もまたこの海の中で迷子になって、消えてしまってもよかった。
「ロボットって、何語が由来か知ってる?」
「英語じゃないのか」
「チェコ語・スロバキア語が由来だよ。
「ふえき......? まあいいや、要するに俺らの代わりに何かしてくれる機械ってことだろ?」
「そう。でも結局この世界でロボットは手助け程度。戦争で都合のいい道具となるのが関の山だった」
「そうらしいな...... 何が言いたいんだ、で」
「人間にできなくて、ロボットにできることってなんだと思う?」
「......効率的な判断とか、か?」
「そう。大人が長い経験をかけて辿り着く効率化を、ロボットAIは一瞬でやってのける。全体の構造を把握できればこそだけど。ただし光ニューロAIは結局人間の脳に処理速度は敵わないみたいね。戦場で一番活躍するのは結局サイボーグで、AIロボットは大型化・半搭乗型化しサイボーグパイロットと連携しパワーを高める方向へ進化した」
「その技術で何百年も戦争してるんだから凄いよな。ずっとマンネリ状態だ」
「じゃあ、君は...... 大人の人間にできなくて、子どもにできることってなんだと思う」
「......強いイマジネーションの集合と実現、だろ?」
彼からウィンクするエモティコンが送られてくる。私もおもわず笑顔を返した。
そんな話をしていると、また見知ったIDと声が割り込んできた。
「今の僕らはある意味幸運だ。AI技術者から接客業、果てはeスポーツ選手や兵役経験者まで。色んな経験した子ども達が集まり、簡単にその頭脳をニューラルリンクしクラウドスペースに取り出すことができる。そして大の大人達はガキにお下がりした、人工肉とポルノ広告だらけのインターネットにはもう見向きもしない」
「夢見る大人達もこうして味方につけれた。このクラウドネットワークはもはやアカデミーだ。新進気鋭の技術者や専門家が場所を用意し、僕らの戦争の手助けをしてくれる」
「わたしたちの集合知は、大人の総和には敵わないかもしれない。けど、大人の10%程度ならゆうに越せる。そしてその集合知からAIが最適解を弾き出し、私たちの代わりに戦ってくれる」
《星間航行級ロボットに襲撃されている! 所属は不明!》
《特殊なクロークおよび亜空間ジャンプを使用している模様、動きは不規則だ!!》
『CQ、CQ!! ISICテルモピュライ、撃/』
『全艦、集中砲火を浴びせろ! それほど巨大なら当たらないはずはない!』
《ダメだ、シールドが強固だ!》
『アーク砲命中! 標的依然動きに変化なし、搭乗型ではない模様』
《馬鹿な、あの動きはAIには不可能だ》
『旗艦EFMヴァルトハイム、集中砲火を受けている! 強烈な電波妨害!! 信号が/』
《番号、
「ねえ、AIってなんの略だと思う?」
「
「残念。
わかってる。私たち子どももいつしか敗れ去るって。
だけど、明けない夜はないって私たちも知っている。だから今は、みんなと一緒に居たい。
アラン、私たちは一人じゃないって、あなたが教えてくれたから。
別々の場所にいても、ゴーストとなっても、全ての子どもたちがこの心を食い尽くしても一緒にいる。きっとあなたのように正しく間違えていないから、あなたは仕方ない奴だなと笑うのでしょう。
さあ、目が覚めるまで歩み出しましょう。私たちには
「ISIC・
-TiER-
>unfold
- Teens intention Enforcement R.o.bot -
NEXT……169 - ロボット三原則改定1950
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885611147
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