125 - レースマシン・ガール
高々と、ラッパの音が鳴り響く。
「サァッ! 始まりました、レースマシン・ガール・レース、年に一度の、ベストヒロインカップのお時間です!」
男がシルクハットをとって深々とお辞儀をする。
「司会はこの私ッ! メガマウス北村でお送りしますッ!」
わァァァァッという歓声と拍手が鳴り響く。会場の熱気は青空の下、最高潮に達していた。
「では先ず、ルゥールッ、説明から! ルールはただの2つッ! 1つ、50km先のゴールに真っ先に到達したものを優勝者とするッ! 勝利レースマシンガールには3億円が! そしてレースの勝者であるという名誉を! そして1つ、兵器使用自由ッ!
「オォォォォォォォっ!」という高額を既に賭けている者たちの雄叫び。その轟音は、既にスタンバイしているレースマシンガール達にも届いていた。
「あほくさ」
レースマシンガールの1人、スピード寄り軽武装のシアンが呟く。
「全く……私はお金があればそれで良いのよ……なんで私の努力で努力もせず稼ぐ人間が出るの……」
青色のラインが入った機械の身体を揺らして、ぴょんと飛び跳ねる。
「ここで勝って、格好いい王子様と……くひひ」
「バカね、AIに恋愛の概念がインストールされたとはいえ」
「なぁっ!? ってマゼンタ! うるさいっ!」
「貴方はお金なんて無くても十分魅力的よ……その武器を活かしなさいな」
もう1人の優勝候補、シアンのとなりに控えていた友人で、優勝候補のマゼンタが、シアンを窘める。
「じゃあ、貴方はなんで走るの。たしかに、攻撃による破損時は運営が修理してくれるし、記憶のバックアップも取られてる。でも……痛いのには変わりないのよ?」
「あら、当たらなければどうという事は無いわ。私は最高に格好良くありたいの。誰かを蹴落とすなんて優雅で無い事はやらないわ。だから武装なんて積んで無い」
「むーっ」
「さあ、もうスタートよ。急いで急いで」
「さぁぁぁッ! 観客席のみんなァ、準備はOKかぁっ? ……OK、じゃあ一緒にカウントダウンだッ! 5……4……3……2……1……スタァァァトッ!」
一斉にサーキットガールが飛び出す。足の裏のブースターを噴射し、高速で飛行を開始する。ぶつかり合い、空を舞うのだ。
「現在の順位は1位、イエロー、2位マゼンタ、すぐ後ろにシアンがつけています。しかしレースは始まったばかりッ! 先は読めません!」
マゼンタが呟く。
「イエロー……また新しいブースターを……NYAON製の最新型ね……速いわ」
「ヘッヘーん! 俺には誰も追いつけないよっ!」
「はいはい、調子に乗らないの」
軽口を叩く余裕があるイエローとマゼンタを必死で追うシアンは口を挟めない。口を出せばあっという間に遅れてしまう。これこそが武器を積まないレースマシンガールの強みでもあり、弱みでもあった。
爆発音。そう、マゼンタの目の前のイエローが、爆発した。
「————イエローッ!?」
突然の事態に叫ぶマゼンタ。シアンは声も出ない。黒い物体がイエローの横腹に激突したのだ。イエローはすうっと速度を失い、落ちていく。
「ふふふ、甘い甘い、だ。スピードだけで勝てると、思うなよ!」
「ああっと! 今、先頭を引っ張っていたイエローが落とされました!順位に変動がッ! やったのは
シアンとマゼンタは、北村のうるさい解説に少し苛立ちながら次々と放たれるブラックのミサイルを回避。
「ブラック……初めて会う」
マゼンタは回避をすることしかできない、が、シアンはブラック撃墜のチャンスを狙う。
「ちょこまかと、猪口才なッ!」
「野蛮な弾丸に当たるの、優雅じゃ無いでしょ」
「ハッ、ならお望み通り地面とキスさせてやるよッ! とっておきの弾幕だッ!」
ブラックの全身から爆発物が放たれる。スピードが様々な、だ。
「それじゃ……私には当たらないッ!」
マゼンタに接近したミサイルを間一髪で回避。2つ目を爆発しない程度に優しく蹴って進路を変え、手榴弾は思いっきり蹴って吹っ飛ばす。しかし。
「こんなものよ……っ……て、う、そ」
「後方不注意、ってなぁ? でも残念、不発弾かよ」
マゼンタの腹部をミサイルが後ろから貫通。そのまま、驚いた顔でゆっくりと落ちていく。
「でもま、驚いた顔が見れて満足」
「……残、念だったわね……」
「あぁ? 何がだ」
「後方不注意、よ。シアンッ! 驚いたのは貴方に対してよ」
「おらぁぁぁぁッ!
反応が遅れたブラックは結局、凄まじいスピードで墜落するという結末を迎えた。
「ああっとォ、衝撃のマゼンタ撃墜の直後、更に衝撃のブラック撃墜! 戦場荒らしのリタイアにより、止まっていたスピードが再び加速ッ! ブラックを撃墜したシアンをはじめ……っと、なんとシアンも急降下!? いや、あれはマゼンタを救いに行ってるのか?」
「シアン……どうして。私のヘマなのに……あなたまでみすみすチャンスを」
「なんだかんだ友達でしょ、私たち。ほら、一緒にゴール潜るよ。せっかくの、最高の晴れ舞台なんだし」
「シアン……」
シアンはマゼンタを抱えて、ゆっくりと加速する。
「トップのゴールからしばらく時間が経ちました。しかし、彼女たちは諦めなかった! リタイア組以外では最下位ですが、しかし、彼女らは無事、走り抜けた! 彼女らも、ベストヒロインと言えるでしょうッ! 今……ゴールリングを潜ります!」
「どうよ……やったわよ……私だってヒロインよ……」
シアンが呟く。
「ありがとう……シアン……」
マゼンタも答える。
観客席からの歓声。沢山の拍手の中に「大金かけたけど許す!」とかも聞こえてくるが……2人は確かに、確かにヒロインとなったのであった。
NEXT……126 - 胸攻神姫ビキニードG!
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885554602
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