063 - 俺と合体したい子が多すぎる!~ロボ的な意味で~

「この野郎! 男なら地上に降りて勝負せんかい!!」


 少年はコクピットの中で思いきり叫んだ。


「最近のお前らズルいぞ! 俺の“ジンガ”が空を飛べない知ってるだろー?!」

『ふぅーはっはっはっ! 空を飛べない貴様のマシンが悪いのだ、ツルギ・カブトよ!』


 蝶型メカを操る少年のライバル“伯爵”は嘲笑うように笑う。

 少年は自分の相棒たるマシン、ジンガを信頼してる。

 だが、開発者である少年の祖父である博士が死んだせいで開発予定の半分の能力しかジンガの力を引き出していない。

 定番のロケットパンチも無い、徒手空拳の丸腰ロボだ。


「くそぉ……俺のジンガだって、空を飛べたら」

 少年が戦いを始めて半年。敵の学習能力の早さには感服するが、流石に戦闘を続けるには機体の限界が見えてきた。


「カブトくん、お待たせ!」

 そこへ雲の切れ間から真紅の戦闘機がやってくる。


「アマテラス、完成したよ。合体しましょ!」

「マユミ!」


 真紅の戦闘機に乗る彼女は老舗のロボット製造会社ゲンオウ重工の社長の娘で少年の幼馴染みだ。


『ちぃ、合体などさせるものか! パルスビームを食らえ!』

 

 マユミの前に蝶型メカが立ちはだかる。そこへ更に増援がやって来た。

 目にも止まらぬ音速の物体が蝶型メカの羽を切り裂く。


「ふん、運がいいわ。シュヴァルツフリューゲルのジェットカッターに耐えるなんて」

「ミネル!?」

「全くだらしないわね。ほらツルギ、さっさと合体して、パフェ奢ってもらう約束でしょ」


 漆黒のステルス機が上空をくるくる旋回する。

 搭乗しているのは転校生の宇葉ミネル。ドイツ人ハーフだ。

 親が世界的に有名な軍事企業シュヴァルツ・エレクトロニクス社の社長令嬢である。


「ほらほら早くしなさいよ」

「待って、ミネルちゃん!」

「何よマユミ。戦闘機は後方支援でしょ」

「違うよ。私も、カブトくんと合体するの」

『……どこへ行くんだツルギ・カブト!』


 そろりそろり逃げ出そうとしたのがバレた。


「カブトくん……」

「ちょっとツルギぃ、どういうことか説明しなさい?」

「いやいやいや、これには深ぁーい事情があるわけだよ!」


 あれはジイサンの遺品を整理してたときだ。

 元々、マユミの会社でジンガの飛行ユニットを作ることは少年も知っていた。

 しかし、博士は少年に内緒で別の所ともジンガの装備品を作る契約をしていたのだ。


「驚いたぜ……アレが小切手という奴か。0が両手で数えられないぜ」

「このバカ! それってダブルブッキングじゃない!」

「酷いカブトくん」

「家に送られてきた資料を見るに、どっちも背面に装着タイプで……同時には無理か」

『えぇい、そんなことはどうでもよい!? 三つともこの場で破壊してくれるわ!』


 蝶型メカの羽から超音波。とっさにジンガは建物の影に隠れた。


「なら全部試すさ、マユミ! まず、お前から合体だ!」

「う、うん。わかった!」


 フットペダルを思いきり踏みしめてジャンプ。

 空中で真紅の戦闘機がジンガの腰に巻き付く形で合体する。


「アマテラスは武器の無いジンガのために武装が色々あるよ」

「ならコイツだ! クロスソーサー!」


 羽から高速回転する円盤が次々と発射され蝶型メカのボディを切り裂いていく。


『バカめ! チマチマした切り傷などダメージにはいらんわ!』

「そうかよ。じゃあ、次はスサノオブレード!」


 真紅の羽が切り離され巨大な刀に変形。ジンガは蝶型メカを真っ二つにする。


「やったか?!」

『残念っ! 脱皮させてもらうぞ!』


 なんと半分にされた蝶型メカの中から一回り小さい超蝶型メカが現れた。

 先程の状態よりもスピード感が増し、ジンガを追い詰める。


「汚ねぇぞテメェ!」

『勝負に綺麗も汚いも無いのだ!』

「速さなら私のシュヴァルツフリューゲルよ! さっさと分離して私と合体なさい?!」


 ジンガは超蝶型メカの攻撃を振り切り、走りながら真紅の戦闘機をボディから離すと、背後からやってくる漆黒のステルス機と合体した。


「マキシマムブースト、オン!」

「ぐぉ……すげぇGだ」


 体が押し潰されるような感覚になりながらも少年は操作レバーをしっかり握る。

 ジンガは音速を越える超蝶型メカのスピードに必死に食らいつく。

 激しい空中戦。お互いに一歩も譲らない。


「チャージ完了! タイミングは任せるわ」

「ポジトロンバスター!!」


 二条の光線が肩の砲頭から放たれると、超蝶型メカの羽と腕を貫いた。


『死なんぞ! こうなれば道連れにしてやるっ!!』


 落ちながら超蝶型メカはジンガに特攻を仕掛ける。


「ミネルは離れてろ。コイツは俺が決着をつける!」

「そんな、アンタ死ぬ気なの?!」

「ラッキーに賭ける」


 背部から漆黒のステルス機を切り離し、ジンガは拳を突き上げる。


『カブト・ツルギィィーッ!!』

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 多いのも空に二つの目映い閃光が花開く。


「そんな……カブトくんが」

「……ツルギの大バカっ……ぅぅ」


 機体から降りた少女たちは悲しき命の花火を眺めて泣き崩れた。


「…………あ、アレ見てミネルちゃん!」

「えっ?」


 黒い塊が煙を上げて落ちてきた。それはジンガの頭部である。


「くはぁー! 死ぬかと思ったぜぇ。流石はG合金、これでボディにも使ってたらよかったのに」


 ハッチを開けて現れた少年は幸いにも大きな怪我もなく生きていた。


「敵も倒せてハッピーエンドだなぁ。はーっはっはっ!」

 夕日に向かい高笑いするの少年を少女たちが取り囲む。


「やぁやぁ君たち、お揃いで俺を歓迎してくれるのかな?」


 だが、少女二人の表情は先程まで泣いていた物とは違う。むしろ怒っていた。


「それで?」

「結局……」

「「どっちと合体するの?!」」

「あっはははは……日替わり交代じゃダメ?」


 少年の未来はきっと明るい。


NEXT……064 - メカ田くん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692/episodes/1177354054885497185

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