第143話 ※芽衣視点
「気を悪くさせてしまってすみません」
暁は静かに目を伏せた。
傷ついた表情を見ていると胸がきりきり痛み、芽衣は罪悪感でいっぱいになった。
「仕事が忙しくて……あまり休みもとれなくて。なかなか女性と出かける機会もないので……久しぶりで緊張して、つい、やりすぎてしまったみたいです」
照れた顔が少年のように純朴で、思わず見とれてしまう。
「芽衣さんに喜んでほしくて、何をあげたら喜んでくれるかなと思って考えたんですけど、うまいやり方が思いつかなくて。だったら、自分がいいと思うもの全部あげたら、きっと喜んでくれるんじゃないかと思って……何か、言ってて自分でも馬鹿みたいだなって思ってきました」
芽衣は思わず吹き出した。
――おかしな人。
少なくとも悪意はなくて、ただ全てが不器用だっただけなのか。
そう分かると、勝手に落ち込んだり傷ついていた自分が、ただ思い込みが激しかっただけのように思えてくる。
会話しながらも彼の手は的確に動いて肉を切り分け、調味料を芽衣に寄越し、飲み物は要らないかと気遣ってくれる。
落ちついた物腰、憂いを帯びた瞳、繊細でしなやかな指先、吐息まじりの柔らかい声。
――もてるんだろうな……。
ぼんやりと芽衣は思った。
知らず頬杖をつきそうになっていたので、慌てて軌道修正する。
どうやら食前酒と一杯目に飲んだカクテルが、今になって効いてきたようだ。
「あの、高遠さんとはどういったお知り合いなんですか?」
最初に会って定食屋に行ったときも同じ質問をしたが、はぐらかされて答えてもらえなかった記憶があった。
彼は今も微笑んだまま、じっと芽衣を見つめている。
心臓の鼓動が大きく脈打ち、体温がじわりと上昇する。
――何だろう。この人の微笑みを見ると、どきどきする。
胸が高鳴ってうるさくて、こめかみの血が騒ぎ出す。
――何だろう。何なんだろう。
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