第134話 ※薔子視点
またホテルや男の家を転々とする生活が始まったが、そのころから由衣は
桐生暁はどんな手を使って調べたのか知らないが、由衣の働く店や住んでいるアパートを突きとめてやってきた。
人目があるので力ずくで連れ戻そうとはしないが、あの嫌らしい目でじっと由衣を見つめ、静かな声で帰るよう命令する。
そしてそのたびに、関わった人間たちが由衣から離れていった。
そのころ芽衣とようやく再会を果たしたけれども、いつ桐生暁がやってくるか分からない状況で一緒に住むなど論外だった。
それに成長した芽衣は、もはや由衣とは比べ物にならないほどしっかりとしており、まっとうな道を歩んでいることが窺い知れた。
そうであれば、自分の存在など彼女の未来の邪魔になるだけだろう。
愚かな姉のせいで、要らぬ心配をさせたり危険に巻き込みたくない。
そう思い、由衣は姉妹の縁を断つことを決意した。
それから逃げ隠れの日々が三年ほど続き、ある日また滞在していたホテルを暁に突きとめられ、仲よくなったホテルマンが由衣に危険を報せてくれた。
間一髪で裏口から逃がしてもらって、夜の街をさまよい歩いていたところ、偶然に高遠を見かけたのだ。
桐生暁を振り切るまで定住はできない。
かといってホテル暮らしは金がかかるし、知り合いの男の家は暁に知られてしまっている。
だから由衣は、居酒屋から出てきた若者たちの群れの中にいた高遠に目をつけ、こっそりついていくことにしたのだ。
つけられているとも知らずに、高遠は泥酔者独特の浮かれ気分でマンションに上がり、部屋の鍵を開けて入った。
ドアは手で由衣が押さえていたので閉まらなかったが、振り向くことも気にすることもなくベッドに直行して、そのままいびきをかいて眠ってしまった。
――のん気だね~。
暗闇の中で、由衣はくすりと笑った。
寝言を言いながら寝返りを打つ高遠を見ていると、何だか自分まで眠くなってきて、小さなあくびを手の平で押し隠す。
何もされず、何も要求されることなく、ただ誰かの隣で温もりを感じて眠る。
そんな夜を過ごしたのは、何年かぶりのことだった。
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