第76話

「まあ想像つくわ。職場の飲み会?だっけ。それにかこつけて、どうせそのクズみたいな連中が、クソみたいなこと言ってあの子を傷つけたんだろ」


「さあな。もしかしたら向こうにも何か言い分はあるのかもしれないけど、こっちはそんなもん知らないし知りたくもないから。関わるだけ時間の無駄だろ」


高遠の口調は、一臣に負けず劣らず辛辣しんらつだった。


「で?結局、芽衣ちゃんは何て言ってた。辞めるって?」


高遠が頷くと、一臣は大きく息をついた。


「……まあ、そうだよな。さすがに、ここまで追い詰められたら辞めざるを得ないよな。本当かわいそうな子だよ。まともに働いて、一生懸命頑張ってるのにさ」


「辞めて正解だろ。いい人材を意味もなく虐げるような会社なんだから、腐ってるんだよ。そんな連中といつまでも付き合ってる場合じゃない。どのみち会社自体、長続きせずに潰れるよ」


「そうはいっても、このご時世だからな。次の就職先も決まらずに辞めるっていうのは、相当不安だろうな。金銭的な援助が得られるわけでもないみたいだし」


「俺が何とかするよ」


一臣はぎょっとした。


「別にそこまで金持ってるわけじゃないけど、少しなら助けてあげられるし、しばらくの間、俺の部屋に住んでもらってもいい」


狭いけどなと高遠はつけ足し、酢を飲んだような友人の顔を見返した。


「何だよ」


怪訝な顔をする高遠に、一臣は言葉を濁した。


「いや、別に何でもないけど……」


手元の空になった缶コーヒーに視線を落とし、しばらく黙り込む。


それから、意を決したように口を開いた。


「……さっき、悪かったな」


「何の話?」


聞き返すと、一臣はばつが悪そうに人さし指で頬をかいた。


「いや、ちょっと言いすぎたなと思って。ヒーローぶってとか、女と関係を切れとか、いろいろ言って悪かった」


「ああ」


ようやく合点がいったのか、高遠は笑った。


「いいよ、全然。本当のことだしな」

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