第155話
「あの日から、私の人生めちゃくちゃだよ。普通の子と同じように家族で一緒に過ごしたり、旅行に行ったりできなくなった。いつも誰かの目に怯えて、こそこそ話してると自分のことなんじゃないかって気になって。
それでも、お姉ちゃんのことをは嫌いになれなかったよ。また一緒に暮らせる日が来るんだって信じてた。
なのに会いに行ったとき、お姉ちゃんが私に言った言葉、覚えてる?」
由衣は唇を引き結び、足元に視線を落としている。
「『もう二度と、私の前にあらわれないで。私に関わらないで』って、お姉ちゃん私にそう言ったんだよ。自分がやったこと、謝りもしなかった。
お母さんのお墓参りだって行ってないんでしょ?親殺しといて、のうのうと何年もどこかで好き勝手にやっといて、今度は何?自分の彼氏との幸せ見せつけるために、私を利用するわけ?それとも私のこと憐れんでるの?お姉ちゃんみたいに男の家を転々とできない、もてない私がかわいそうって?
おあいにくさま。私、もう彼氏できたから。お姉ちゃんが高遠さんと住むなら、私はその人と一緒に住む」
「芽衣」
由衣は叫び声を上げて、芽衣の腕をとった。
「お願い。桐生暁に近寄らないで」
芽衣が目を丸くして息を呑む。
「どうして知って……」
「お願い。一生のお願い。私と一緒に住んでくれなくていい。もう二度と私の話を聞いてくれなくてもいい。だからお願い。約束して。金輪際あいつには会わないって」
由衣の目つきや口ぶりから尋常でないものを感じ取ったのだろう、芽衣の気勢は削がれた格好になった。
「急にそんなこと言われても困るよな。でも、いろいろと込み入った事情があって、
今はうまく説明できないんだ。全部のことがちゃんと終わったら、由衣の口から芽衣ちゃんに必ず説明させる。だから、今は由衣の言葉を信じてあげてくれないかな」
「だって桐生さん、高遠さんの知り合いなんじゃないんですか」
猛然と食ってかかってきた芽衣に、高遠はぎょっとした。
その反応で芽衣は事実を察したのか、呆然と、
「違うんだ……」
「芽衣ちゃん、頼む。今は」
言いかけた高遠を無視し、芽衣は由衣を睨みつけた。
「お姉ちゃん、桐生さんとつき合ってたの?」
矛先を向けられて、由衣は泣きそうな顔になった。
「そうなんでしょう?違う?」
二人の身長はほぼ同じくらいだが、並ぶとやや芽衣のほうが高い。
詰め寄られて、由衣は後ろめたい表情で首をすくめることしかできなかった。
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