第154話

朝八時からアパートの玄関に現れた高遠と由衣を見て、芽衣は邪険な態度を隠そうともしなかった。


「何しに来たの?帰って」


由衣は無言で芽衣を抱きしめた。


手も肩も体も震えていることに気づいて、芽衣は眉を寄せる。


「ちょっと、やめてよ」


突き飛ばす格好になってから、たじろいだ表情で問う。


「何なの?」


「芽衣ちゃん、あのときはごめん」


と言って、高遠は率直に頭を下げた。


「何を謝ってるんですか?」


芽衣は冷ややかな態度で応じる。


「君のことを助けるって決めたのに、あのとき話も聞かずに飛び出していったこと、本当に悪かったと思ってる。でも、これからは違うんだ」


「は?何が」


つっけんどんにやり返されて、由衣は高遠と目を見交わせる。


親密な様子が気に入らないのか、芽衣の態度はどんどんささくれ立っていった。


「芽衣ちゃん。俺たち一緒に暮らそう、三人で」


高遠が言うと、芽衣はぽかんと唇を半開きにして固まった。


ややあって、その表情が嫌悪に歪む。


「一体、何の冗談ですか?嫌がらせも大概にしてください」


「冗談じゃないよ。どこか広めのアパートを借りて、一緒に住もう。そしたら、いろいろ協力し合って生活できる。安心だし心強いと思うんだ」


熱心に話す高遠の顔から視線を外し、芽衣は隣にいる由衣に冷徹な視線を注いだ。


由衣は責められているかのように、伏し目がちでうなだれている。


「それ、姉と相談して決めたんですか?」


「もちろん」


高遠が答えると、芽衣は腕を組んで傲然と言った。


「じゃあ何?お姉ちゃんは私から高遠さんを奪うだけじゃ飽き足らず、今度はそのラブラブっぷりを見せつけるという新手のいじめを始めたわけ?」


痛烈に皮肉られて、由衣の顔色が青ざめる。


「芽衣。私」


「ねえお姉ちゃん。何でお父さんを殺したの?」


姉の言葉を遮り、芽衣は無表情で言った。

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