第52話
一臣はフットサルの中心メンバーのため、今までも友達や先輩を連れてきたことは何度かある。
大体が突然で、前もって高遠に話があったわけではなかった。
だが、初対面の人間といっても軽く挨拶をするぐらいで、特別扱いする必要もないため、今までそれで問題なかったわけである。
わざわざ連れていく前に念を押すということは、つまり、その人物に一臣が気を遣っていることを意味している。
普段から歯切れよく話す彼が、珍しく遠慮している様子からしても間違いない。
「どんな奴なの?何つながり?」
高遠が訊くと、一臣は「あー」としばらく間を置いて、
『実はうちの患者さんなんだよ』
高遠は目を瞠った。ますます珍しい。
一臣が鍼灸整骨院に勤務しているのは知っているが、今まで同僚を連れてきたことはあっても患者を連れてきたことはなかった。
『最近元気なくて、体を動かしたら、ちょっとは気分もましになるんじゃないかと思ってさ』
妙に言いわけがましい口調に、高遠は(これは何かあるな)という思いを強くする。
「ふうん。分かった。じゃ、火曜日に」
電話を切ろうとしたところ、
『ちょっと待った』
慌てた声が言った。スマホを耳に当て直すと、
『例の薔子とかいう女、本当にちゃんと別れたんだろうな』
高遠は息を呑んだ。それは向こうにも伝わったらしい。
『どうなんだよ』
スマホの向こう側から、何とも言えない不安感が伝わってくる。
「別れるも何も、最初からつき合ってねえし」
一臣は呆れ半分、嘆き半分の溜息をついた。
『……お前のその言葉を何回聞いたことか』
「え、何?よく聞こえなかったんだけど」
『何でもない。じゃあな』
と言って、返事よりも先に通話は切れた。
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