第151話
「……たくさんの男の人に媚び売って、騙して、お金いっぱい巻き上げて、裏切って、逃げ回って。十五のときから、そんなことばっかりしてた。いろんな人のこと傷つけてきた。迷惑いっぱいかけてきた。
奥さんも子どももいる人の家庭を……壊したこともある。私のせいで心を病んだり、仕事を失ったり、人生めちゃくちゃになった人もいる。取り返しのつかないようなこと、いっぱいあった」
地面にしゃがみ込んでいる由衣の細い背中を、高遠はじっと見つめていた。
「後悔してるの。悪かったと思ってるの。だから多分、罰が当たったんだよね。それで、こんなことになっちゃったんだよね」
悲鳴のような音で息を吸い込むと、由衣は切り出した。
「私、逃げてるの。男の人から。その人と十六のころから三年間、一緒に暮らして、ひどい目に遭って、そこから……逃げ出した。
その人は今も諦めてない、ずっと私のことを捜してる。捕まらないために、何のつながりもない高遠の部屋に転がり込んだの」
高遠は、由衣の太ももに刻まれた傷のことを思い出していた。
自分だって、人に褒められるような生き方をしてきたわけじゃない。
人生に通知簿があるとしたら、もらえるのはせいぜい『もっと努力しましょう』ぐらいだろう。
でも、そんな経験など生ぬるいと思えるような深い泥沼にはまって、もがき続けてきた人もいるのだ。
そんな怖ろしい出来事が、こんなにも若く、美しく、ひとりぼっちだった女性に襲いかかったのだ。
「本当は、芽衣と一緒に暮らしたかった。でも私のせいで、あの子の人生にどんな悪影響を及ぼすか分からない。いつかきっと、私の存在自体が、あの子の邪魔になる。それだけはしたくない、あの子の足だけは引っ張りたくないの。幸せになってほしい」
「由衣」
由衣の息が上がっている。高遠は背中をさすりながら言った。
「……じゃあ、お前の幸せは?」
由衣は目をみはった。
「私の……?」
「そう」
「そんなこと聞いてくれた人、初めてだよ」
長い沈黙の後、由衣は咳払いして声を改めた。
「私の……わがままが一つだけ許されるなら、できればこれからもずっと、あの子を見守りたい。直接会うことはできなくても、時々こっそり姿を見て、元気にしてるか確かめたい。
気持ち悪いよね。でも……それが私の幸せなの」
胸の前で両手を組み合わせ、由衣は祈るようなしぐさをした。
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