第27話 ※薔子視点

店の前までたどりついたとき、門田は静かに切り出した。


「例の彼、この間私の事務所に来たよ」


薔子は鋭い目をして立ちどまった。


「いつ?」


組んでいた腕を解き、抑揚よくようのない声で尋ねる。


「先週の木曜日だったかな」


門田は言いながら、目まぐるしく思考を働かせている薔子の横顔を観察していた。


あざとさや計算の加味された、いつもの人工的な表情とはまるで違う、素の彼女の表情を。


薔子は演技することも忘れ、下唇を軽く噛み、大きな瞳を曇らせながら、門田の視線が注がれていることにも気づいていないようだった。


「まだ諦めてないんだ……」


自嘲じちょうじみた笑みと言葉が、ほぼ同時にこぼれる。


「一度、警察に相談したほうがいい。私でよければ同行するよ」


「ありがとー」


と言うと、薔子は門田の背に腕を回して抱きついた。


しなやかな薔子の体を抱きとめた肩越しに、門田は気づかれぬようそっと、哀しげに目を伏せた。












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