第26話 ※薔子視点

薔子は甘えるように彼を見上げる。


門田の身長はさほど高くない、ヒールを履いた薔子とほぼ同程度だ。


だが絶妙のさじ加減で膝を曲げ、わずかに首を傾げてみせると、門田より随分と小柄なように錯覚された。


「住所も携帯の番号も知ってるんだろう?」


歩き出すと、門田は物柔らかな口調で言った。


「喉渇いちゃった。私、『百年の孤独』が飲みたいなー」


ふわふわと間延まのびした声で、薔子は焼酎の名前を挙げる。


「たまには会いに行っておあげよ。直接会って話をすればいい。彼女は君の」


「あ!でも、やっぱ『森伊蔵もりいぞう』がいいかも。ママが言ってたの。昨日入ったばっかりなんだってー。ねえ先生、一緒に飲も?」


門田の口元を苦笑がかすめる。


二人はゆっくりとした歩調で横断歩道を渡っていく。

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