第136話 ※薔子視点

「ねえ、どうやって居場所が分かったの?」


「一臣が」


鼻をすすり、高遠はようやく顔を上げた。


「お前のスマホの番号から、GPS機能使って調べてくれたんだよ。最初はスマホの電源切ってたから無理だったけど、ちょっと前に電源入れただろ。それで、たどりつけた」


由衣は目を丸くした。


「スマホ、一回見せただけなのに」


それも一臣が来店したあのとき、ちらっと見せただけだった。


連絡先も交換していないし、一臣も由衣の携帯をいじったりせず、すぐに返してくれた。


まさか、そんなことができるとは思わなかった。


「ほら、行くぞ」


高遠に手を引かれて歩き出し、由衣は尋ねた。


「行くってどこへ?」


「ここよりましな場所。お前、腹は?」


聞かれて初めて、猛烈な勢いで体が空腹を訴え始めた。


「……すいてるかも」


由衣は小さく舌を出す。


そういえば、今日は朝から何も口にしていなかった。


「俺も。何か食おうぜ」


高遠はにかりと歯を見せて笑った。


駅の案内表示板に十八時三十二分とあるのを見て、由衣は疑問に思った。


高遠はたしか今日は遅番だから、こんなに早い時間には上がれないはずだ。


「高遠、仕事は?」


と訊くと、


「クビになった」


即答されて目をぱちくりさせる。


「何でー?下手くそだから?」


「誰が下手じゃ」


軽く頭をたたかれ、髪の毛をわしゃわしゃと撫でられる。


「ね。これってもしかして、初デートじゃない?」


「デートって言うな、こっ恥ずかしい」


高遠の耳が赤く染まるのを見て、由衣は嬉しくなって「デートデート」と繰り返す。


それを鬱陶しそうに聞きながらも、高遠は決して、つないだ手を離そうとはしないのだった。











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