第131話 ※薔子視点
目を覚ますとそこは広くて綺麗な部屋の中で、大きなベッドの上に由衣は横たわっていた。全裸で。
頭が猛烈にがんがんして吐きそうだった。
西日が差していることから夕方であることは分かったが、いつの夕方なのかは見当もつかなかった。
「目が覚めた?」
と言って暁がやって来たとき、由衣は諦めと絶望を同時に覚えた。
あの薄暗いクラブで会ったときよりも増して、彼の目はおかしな光り方をしていた。
「ルールを説明しようか」
細いしなやかな長い指を立て、暁は共同生活のルールを説明し始めた。
基本的に由衣は、この部屋の中のみで生活する。
暁が与えるものだけを飲み食いし、命令には全て従う。
暁の言うことに逆らうたびに、身体的拘束が増えていく。
お利口にしていればご褒美に外出にも連れていってもらえる。
悪いことをすればお仕置き。一度でも脱走すれば、一生外には出さない。
「期限は?」
無駄だろうなと思いつつ、由衣は尋ねてみた。
「さあ。俺が飽きるまでかな」
やけに牧歌的な口調で暁は言った。
「でも、それはずっとずっと先のことだよ。時間だけはたっぷりあるんだ。ゆっくり楽しもう」
由衣が警察に通報しない、あるいはできない事情があることを、暁は明敏に察知しているようだった。
それから約三年間、思い出したくもない暮らしが続いた。
ようやく父親から逃れてきたのに、その先に待ち受けていたのは、さらに過酷な監禁生活だった。皮肉な話だ。
暁は激情に任せて暴力を振るうのではなく、ごく冷静に淡々と、そして楽しそうに由衣を傷つける。
直接殴ったり蹴ったりすることは少なく、多くは道具を用いておしおきの『儀式』を行った。
どうすれば効果的に人を痛めつけることができるのか、彼は知り尽くしていた。
脱走しようとしたことも一度や二度ではない。
彼の留守や宅配業者が来たとき、高層マンションのベランダを伝って逃げようとしたことすらあった。
そのたびに脱出は阻まれ、死よりも惨い仕打ちが待っていた。
彼が特に気に入っているのが水責めで、決して死なずに苦しみ続ける絶妙のラインを心得ていた。
風呂場で半永久的に口に水を流し込まれ、あるいは湯船に顔を押しつけられ続けたことも数え切れないほどあった。
暁のほうは何回やっても飽きないらしく、由衣は何度やられても恐怖と苦しみに慣れることはなかった。
まさかここまではしないだろうという予想を、ことごとく裏切るのが桐生暁だった。
泣きながら許しを乞う由衣の耳を、高熱で焼いたヘアアイロンで挟んだこともある。
どういうわけか、由衣の顔が苦痛に歪むほど暁の興奮は加速度的に増していき、悲鳴すら上げられなくなると儀式は終了する。
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