第144話 ※芽衣視点
「あなたは?」
暁はにっこりして問いかけた。
「小村君の恋人ですか」
「違います」
あまりにも速く、あまりにも明確に答えたため、逆にその答えは相手に何かを気取らせてしまったようだった。
「私はそんな、恋人とかそういうんじゃありません。私はただ高遠さんの、ただの知り合いです」
必死に塗りたくった言葉が上滑りする。
顔が真っ赤になっていく芽衣を、暁は気おくれするほど凝視している。
その長い指が軽く唇に触れ、なぞるように動いた。
――何してるんだろう、私。
芽衣は膝の上で拳を握り締めた。
――仕事も辞めて、勉強しなきゃならないのに、お世話になった人にふられて、つきまとって。
――それで、よく知らない男の人と、こんなところでふらふら遊んでる。
恥ずかしさと情けなさが込み上げてくる。
「よかった」
言われて目を上げると、暁は安堵したように笑っていた。
――何の笑顔?
不可解に思う芽衣だったが、追及するより先に彼は席を立つ。
「そろそろ行きましょうか」
「あ、はい」
立ち上がりかけた途端、ぐらりとバランスを崩した。
何かをつかもうと手を伸ばしたが、その前に暁の胸に抱きとめられていた。
「ごめんなさい」
少ししか飲んでいないのに、こんなに酒が回っているとは思わなかった。
慌てて体を離そうとした芽衣だったが、暁は離すどころか力を込めて抱きしめてくる。
「あの……桐生さん?」
困惑に耐えかねて、芽衣はくぐもった声を上げた。
暁は腕を緩めると、彼女の耳元に唇を寄せて悩ましい声でささやく。
「芽衣さん……僕と、つき合ってもらえませんか」
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