第97話

研ぎ澄まされた瞳には、一点の迷いもない。


はったりや、こけおどしではない。


このまま返答を拒めば、彼女はためらいなく自分の目を突いて失明させるだろう。


怒鳴りつけてもおらず、目を血走らせてもいないのに、なぜだか高遠は確信していた。


「何もしてない。ただ、あの子はお前を恨んでる。お前が九年前、自分の父親を殺したから」


そこまで答えると、眼球から指が引かれるのが分かった。


今なら力ずくで薔子を跳ねのけられると思ったが、高遠はあえて無抵抗に横たわったまま、天井を見上げて喋った。


「父親が死んで幸せだった家庭は壊れて、その後すぐに母親も病気で死んで、お前たち姉妹は離ればなれになった。そうだろう」


薔子の冷たい目は何の感情も伝えてこない。


高遠には計り知れない何かをずっと見つめている。


「なあ。……何で父親を殺したんだ?」


くすりと薔子は笑った。


「馬鹿みたい」


高遠は、これほど哀しい笑みというものを今までに見たことがなかった。


「門田弁護士は言ってた。実際に父親を殺したのは、お前じゃなくてお前の同級生だったって。でも父親を殺すようにそそのかしたのはお前だって、妹さんはいまだにそう思ってる。誤解なら、それを解く努力をすべきなんじゃないか」


聞こえているのかいないのか、薔子は高遠の体の上で小刻みに体を震わせて笑い続けている。


「お前は何から逃げ回ってるんだ。芽衣ちゃんからか、それとも自分の犯した罪からか」


薔子が答えず笑い続けているので、とうとう高遠は身を起こして彼女の手を掴んだ。

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