第98話

「俺がお前や芽衣ちゃんと知り合ったのは、ただの偶然だ。でも、これも何かの縁だろ。ここまで来たらちゃんと最後までつき合ってやるから、そろそろ本当のこと話せ」


ようやく薔子は笑いやんだかと思うと、


「高遠、らしくなーい」


いつものような調子っぱずれの甘ったるい声で、高遠の頬を人差し指でつついた。


「お前な。ここまで来て逃げられると思ってんのか」


「お疲れなんだね。癒してあげよっか」


高遠の発言をまるっきり無視し、薔子は手のひらを親指で刺激し始めた。


「はい。肩こりに効くツボー」


絶妙の力加減で位置を変えながらツボを押し、にこっと笑う。


そのまま高遠の指先に唇を当て、軽く舐めて口に含んだ。


高遠は手を引き、逆に薔子の両手をつかんで制した。


「やめろ」


「何で?」


純粋な瞳で薔子は言った。


「別に私、病気とか持ってないよ」


「そういう問題じゃねえんだよ」


溜息まじりに高遠は言った。


「人を馬鹿にすんな」


「馬鹿になんてしてないよー。高遠が疲れてると思ったから」


「そうやって都合が悪くなると、とりあえずエロい感じにしてごまかしてきたんだろうけど、俺には通用しないから」


断固とした口調で高遠は言った。


「面倒くさいからって逃げるなよ。ちゃんと話せ。俺はもう覚悟決めたから。お前が話すまで絶対諦めないから」


見つめ合うこと三十秒、先に目を伏せたのは薔子だった。


「……分かった。ちゃんと話す。だから離して?」


そう言われて高遠は、彼女の両腕を痕がつくほど握り締めていたことに気づいた。


腕を解くと、薔子は真顔で言った。


「変わったね。高遠」


「……そうかもな」


夜明け前の一番濃く深い闇が、室内を繭のように覆っている。


薔子は瞑目めいもくし、ややあって目を開けると、


「今日はもう遅いから寝るね。明日話す。それでいいでしょ?」


「ああ」


高遠は頷いた。


その見透かすような瞳に、薔子はかすかにたじろぐ。


「おやすみ、薔子」


「……おやすみなさい」














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