第65話

「わーい。高遠大好きー」


嬉しそうに笑い、薔子は仕上げにフェイスパウダーを頬にはたいている。


相変わらず抜けるように肌が白い。一体、何を食べたらそうなるのか聞きたくなるくらいである。


薔子の髪質はどちらかというと直毛で硬く、健康的でつやがある。


当人の性格とは違って、扱いやすい素直な髪である。


軽く霧吹きで濡らしてからドライヤーで乾かし、温めておいたヘアアイロンで手早く巻きながら、高遠は静かに切り出した。


「お前さ、いつまでこんなこと続けるつもり?」


「こんなことって?」


「分かってんだろ。しらばっくれるな」


淡々と手先を動かしながら、鏡に映る薔子を見つめる。


どんなに微細な表情の変化も決して見逃すまいとして。


「……人のこと言えるの?」


ぽつりと言い、薔子の口元に皮肉な笑いがきざす。


「高遠だって、全然自分のこと話さないじゃない」


珍しく真顔で、薔子は高遠を正面から見つめ返してきた。


思わず指が動いて、巻き上がった毛先を軽く引っ張る。


「あ、痛ーい。高遠の下手くそ」


大げさに頭を押さえ、薔子は涙目で抗議した。


「言ってろ。ほら、できたぞ」


高遠は薔子の肩を強くたたき、ヘアアイロンのスイッチを切ってコードを巻き上げた。


ふんわりと大きく巻いた髪が軽くサイドにまとめてあり、残りはおろして肩から流れるように上品なウェーブを描いている。


我ながら最高の仕上がりであった。

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