第121話 ※薔子視点
家に帰って母に言いつけると、
「仕方ないよ」
と、またあの返事が返ってくる。
「私がこんな役立たずで、あの人の相手もできないから」
そんな意味不明な理由で娘を
かばってくれないことは最初から分かっていた。
それから一週間に二、三回、そういうことがあった。
一度だけ、指に噛みついて抵抗したことがある。
そうすると思いきり頬をビンタされて、しかもやめてくれるわけでもなかったので、殴られ損だと思い由衣は抵抗を諦めた。
唯一の救いは、隣で眠る芽衣が何も気づいていないことだった。
おとなしく由衣がされるがままになっている間は、父も芽衣には手を出さない。
芽衣は頭を打ってから、しばしば現実を妄想と置き換えるようになった。
家族旅行をしただとか誕生日プレゼントをもらったというように、ありもしない家庭の幸福を、さも味わっているかのように由衣や友達に語っている。
危うい傾向だと思った。
精神的に脆くなって、少しの刺激で自我が崩壊しそうな気配があり、そのことだけが心配でならなかった。
こんなこと、芽衣には耐えられない。知れば今度こそ心が壊れる。
極限の状況に追い詰められる中で、由衣の体重は減っていった。
愛らしい頬は削げ落ち、鎖骨が浮き出て、手も足も棒切れのよう。
もしかしたら、先に壊れるのは自分かもしれない。
でも、相談できる相手もいない。
――このままじゃ私も芽衣も、親に人生食い潰される。
四年が過ぎ、由衣は中学二年生になっていた。
死に物狂いで全寮制の高校を探し、血眼になって奨学金にありつこうとしていた。
成績は中の上といったところだったが、試験前であろうと父親の性的虐待はなくならない。
頼むから今だけはやめてというときに、図ったようなタイミングで酷い目に遭わされる。
だから、高校の入学のために貯めておいたお金があると母に教えてもらったとき、由衣は狂喜した。
これで高校に行ける。
奨学金のことを考えなくてすむのなら、あとは勉強だけすれば志望校に合格できる。
信じられなかった。
最後の最後で、母親は自分と芽衣のためにこつこつお金を貯めていてくれたのだ。
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