第73話

気づいたら、高遠は芽衣の体を抱きしめていた。


「……辛かったね」


芽衣がかすかに身じろぎしたので、すぐに体を離す。


「芽衣ちゃん」


高遠は彼女の目を見つめて言った。


「一度、ゆっくり休もう」


いつの間にか一臣が病室に戻ってきていたが、二人はそのことに気づかず、ひたすらお互いと向き合っていた。


「今までそんなぼろぼろになるぐらい頑張ってきたんだから、一ヶ月や二ヶ月お休みしたところで、ばちは当たらないと思う」


「でも」


思わず芽衣は言いかけたが、


「もうこれ以上、頑張っちゃだめだ」


その言葉に、芽衣はうなだれた。


「一臣もすごく心配してた。俺も心配だよ。そんなに張り詰めて、心も体も悲鳴上げてるんだから、ちょっとは休まないと」


人間は案外、簡単に壊れてしまうものだ。


高遠は、そのことをよく分かっていた。


彼女が今、自分がどれほど傷ついているか知ろうとせず、立ちどまることが怖いのであれば、それを止めてやることができるのは自分しかいない。


傷の深さを知りたくないのは、知れば痛みに耐えられないから。


立ちどまるのが怖いのは、一度止まったら、もう歩き出すことができないから。


――俺には分かる。この子は、かつての俺そのものだ。

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