第126話 ※薔子視点

それから四日間、由衣は学校へ行かなかった。


行かなかったというより行けなかったのだ。


母は本格的に体調を崩しており、今度の退院は少なくとも年明けまで待たねばならないだろうと言われていた。


父が病院に顔を出すと、母は涙を流して喜んだ。


自分や娘のために帰ってきてくれたのだと、それでもまだ信じているのが滑稽こっけいだった。


食事どころかトイレに行くことすら許してもらえない日々が続いた。


ちょうど芽衣は三泊四日の校外学習に行っていたので、どうにか難を逃れられたのが不幸中の幸いだった。


母は不在、妹は旅行。


唯一の望みだった安藤比呂との絆を、由衣は自分の手で断ち切った。


だから、助けてくれる人などいるはずもなかった。


四日後には鳥ガラのようにやせ細り、自力で歩行することすら困難になっていた。


血の混じった便が出るし、声もうまく出せない。


皮膚がぶよぶよで殴られても蹴られても麻痺したように何も感じず、魂が半分抜けかけているのを自分で感じた。


今が昼なのか夜なのかさえ分からなかった。


父親はやけに上機嫌で酒を飲み、くだらないテレビ番組に爆笑している。


室内にはごみと洗濯物が溢れ返り、台所のシンクに汚れた皿が山のように積まれ、蠅が耳元でうるさく飛び回る。


畳に顔をつけると、汗とも腐臭ともつかぬ酸っぱい匂いがした。


そろそろ死ぬんだな――と思って由衣は目を閉じた。


せめて芽衣が帰ってくるまでは生きていたい。あの子の顔を見てから死にたい。


でも、その気力すら自分に残されているかどうか。


全身が重く、何とも言えずだるく、泥の中にいるような気分だった。


腕や顔や足に青痣や打ち身、無数の切り傷や擦り傷がついていた。


息がしにくいのは内臓を痛めているせいか、肋骨が折れているからか。

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