第14話

薔子は人さし指を自分の唇に当ててから、高遠の唇に近づけてきたので、高遠は大きく身を揺すって突っぱねた。


「出ていけって言ったろ」


「お風呂湧いてるよ。先に入っちゃって。お味噌汁あっためとくね」


高遠の抗弁こうべんなど意に介さず、薔子は弾むような足取りでリビングへ向かう。


「人の話を聞けって!誰なんだよお前」


信じられない気持ちと困惑と怒りがないぜになって、高遠は叫んだ。


「今日のおかずは肉じゃがだよー」


エプロンをひるがえし、薔子は愛くるしく笑う。


頭痛を覚え、高遠は「勘弁してくれよ……」と情けない声を出した。


廊下にへたりこみ、前髪をくしゃくしゃと手でかき回す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る