第57話

「ラーメン。夜中の十時にラーメン。しかも豚骨ラーメン、チャーシュー大盛り」


ぶつぶつと一臣は呪詛じゅそのように呟いた。


「絶対太るぞ」


「じゃあ食うなよ」


カウンター席の左隣に座った高遠が呆れたように言う。


「俺は運動してるから大丈夫なんだよ。お前は接客業なんだから気をつけろよ。太った美容師に、美容のことをとやかく言う資格はないからな」


「ほら来たぞ。さっさと食えよ」


「言われなくても食いますよ」


両手を合わせて一臣が「いただきます」と箸を割る。


野菜のうまみが溶け込んだ白く濁った豚骨スープに、コシのあるやや固めの麺。


チャーシューが花弁のように丸く盛りつけられており、半熟卵のとろっとした黄身とシャキシャキのもやしが味と食感にバラエティーを添えている。


一口食べてスープを飲めば、もうやめられない止まらない、やみつきになるうまさであった。


「小村さんは、美容師をなさってるんですか」


遠慮がちに口を開いたのは、高遠の左隣でラーメンをすすっていた芽衣だった。

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