第90話 ※薔子視点

「面白い人。わざわざ、それを言うために私のところに来たんですか」


「そのつもりでしたね。でも、あなたを見てると、ちょっと違うんじゃないかなって気もしてきた」


「とおっしゃいますと?」


リズムよく返事が返ってくるのが心地よく、薔子が会話の流れに身を委ねていると、


「あなたは多分、すごくいい人なんだと思う」


突然、予想の範疇を越えた言葉が返ってきて面食らった。


「高遠は女好きっていうか、常に周りに女がいる奴だけど、悔しいことに女を見る目は確かなんですよ。悪い女に騙されることもないし、あったとしても、気づきながら騙されてやるタイプなんですよね」


その言葉は非常に的確に急所を突いたので、薔子はしばし息が止まった。


「目の前に寒がってる女がいたら、自分が裸になってでも服を貸すような奴なんですよ。要は馬鹿ってことなんですけど」


「……よく分かってらっしゃるんですね。高遠のこと」


微笑んでいるのに寂しげな薔子の横顔に、自然と目が引きつけられる。


そんな自分に気づき、一臣は心の中で降参した。


――これは惚れても仕方がないな。


「一つだけ、頼みを聞いてもらえませんか」


「嫌です」


にこっと笑って薔子は胸に手を当てた。


「お願いを聞いてもらうのは私のほうですもん」


「困ったな」


一臣が本気で戸惑っているので、薔子は無邪気な笑い声を上げた。


「冗談ですよ。どうぞおっしゃってください。聞いてあげられるかは分かりませんけど」

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