第50話

『ここが都内人気ナンバーワン、完全予約制で一年先まで診療予約が埋まっているという超有名歯科クリニック、今回特別に取材を許可していただきました。世田谷の桐生クリニックです』


受付にそろった受付嬢は、二人ともモデル並みに美人だった。


カメラとレポーターに応じて頭を下げ、営業用のそつのない笑顔を振りまいている。


『綺麗ですねー。広いですねー。ここでは最新式の治療器具と確かな技術で患者さん一人一人に合わせた最善の治療を行うということをモットーに、院長が全ての患者さんを診察し、治療後も経過観察を含めて細やかなケアが行われています。


しかも!それだけではないんです。その院長先生、噂によると、物凄くイケメンなんだとか。楽しみですねー。それでは、先生にお話を伺っていきましょう!』


院長室の前で興奮気味にしゃべり散らすレポーターが、院長室のドアに手をかける。


『失礼しまーす』


その瞬間、薔子の手がリモコンに伸び、テレビの電源を切った。


何の前触れもなく画面が真っ黒になる。


「何だよいきなり」


高遠が薔子を見ると、


「早く食べなよ。せっかくの唐揚げが冷めちゃうよ?」


パッケージを開けたまま机の上に置かれた唐揚げが、ほくほくと温かい湯気を上げている。

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