第51話

「あーんしてあげようか」


薔子が首を傾げてからかった。


「要らねえよ」


高遠が邪険に手を振ったとき、スマホの振動が響いた。


立ち上がってベッドまで行き、鞄からスマホを取り出す。


液晶画面には【前田一臣】の文字があった。


「もしもし?」


高遠はベランダまで行くと、窓を閉めて話し出した。


初夏の夜空に星が一つ二つ、薄白く光っている。


『高遠、今大丈夫か?』


律儀な友人に高遠は苦笑した。


「大丈夫だよ。何?」


『今度の火曜日、新しい子を連れてこようと思うんだけど、いいか?』


少し遠慮がちに一臣の声が響いた。高遠は目を丸くする。


「フットサルに?」


『ああ』


「全然オッケー。だけど珍しいな、一臣がわざわざ断り入れるなんて」


フットサルのメンバーは基本的に知り合いや顔見知りで、特に入会金や手続が必要なものでもなく、来る者拒まず去る者追わずでゆるく運営されている。


そのためメンバーの入れかわりや人数の増減は割と頻繁に起こるし、仕事や学校が忙しくて顔を出せなくなったり、逆に転勤から戻ってきて復活したりするメンバーもいる。


そういう流動的なつながりだった。

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