第55話




小柄だが、驚くほど俊敏しゅんびんで、敵味方の呼吸を読むのがうまい。


絶妙のタイミングでパスを出し、ここにいてほしいと思う場所にいつもいる。


初心者とは思えない力量だ。


抜け番になった高遠は、ベンチから試合を見つめて評価していた。


試合終了のホイッスルが鳴り、汗だくになってコートから出てきた彼女に、


「はい」


スポーツドリンクを手渡すと、ぱっと目を見開いた。


「ありがとうございます」


素直に受け取って飲む仕草があどけなく、中学生か高校生くらいに見える。


清瀬芽衣きよせ・めいさんだっけ」


はい、と芽衣が答えると、高遠は手を差し出して、


小村高遠こむら・たかとおっていいます。よろしく」


「よろしくお願いします」


芽衣はおずおずと手を伸ばしかけ、汗ばんだ手のひらを慌ててタオルで拭き、それから改めて握手を交わした。


「何かスポーツやってたの?」


尋ねると、芽衣は首にタオルを巻きながら少し打ち解けた表情で、


「高校のときに陸上部に入ってました」


「短距離?長距離?」


「四百メートル走です」


「うわ。一番きついやつじゃん」


素で言うと、芽衣は小さく笑い声を上げた。


「そうなんです」


「道理で足、速いわけだ」


「いやいや」


謙遜し、恥じらうように目を伏せた彼女を、高遠は精密な眼差しで観察する。

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