第67話



「いいかげんにしろよ」


鍼灸院しんきゅういんのベッドにうつ伏せに寝るなり、一臣は容赦ない力で肩のツボを刺激し始めた。


「さっさと放り出せって言ったろ」


「痛い痛い痛い!」


高遠が声を上げると、さすがに力を抜いてまともな施術に入る。


「……俺だってそうしたいよ。けど」


「けど何だよ」


「放っとけないんだよ」


しょんぼり呟くと、一臣は腹立たしげに息をついた。


「ほら見たことか。だからやめとけって言ったんだよ」


「鬼の首取ったように言うな」


言いながら、気持ちよく高遠は目を閉じた。


凝り固まった背中を揉みほぐしていく一臣の腕は確かだ。


緊張や疑念でがんじがらめになっていた心まで、ゆっくりと解けていくような気がする。


「お前はいつもそうだよな」


嘆きとも憐れみともつかぬ口調で一臣は言った。


「ちょっとかわいそうな女を見るとすぐ寄っていって、ヒーローぶって全力で助けたがる。でも自分の中に踏み込まれるのは嫌だから、深くは付き合わない。

菜月さんのときだって、彼女の両親が離婚してて、父親との間でいざこざがあって、そこから付き合い始めたんだろ」


「関係ないって。別に俺、ヒーロー気取りでも何でもないし」


「ヒーローじゃなくても、とにかく困ってる女を見るとお前もう、なりふり構わず助けようとするじゃん。見てて痛々しいぐらいにさ。

で、助けられた女子は、当然お前が自分に好意を持ってると勘違いするだろ?

そんで告白されて、お前も悪い気しないからつき合うだろ?

でも、お前は彼女を助けることが目的なんであって、愛することが目的じゃないから、そこでもう満足しちゃってるわけ。そしたら今度は別の困ってる女を助けることに気が向いて、関係はおしまい。

女の側から見たら、遊ばれて捨てられたと思い込んでも無理ないぞ。何回同じこと繰り返したら気が済むんだよ」


分かったふうな言い方が気に障り、高遠はベッドから起き上がった。

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