第32話 ※一臣視点

しばらく間があいた後、


「職場の人が自殺したんです」


芽衣は唐突とうとつに口火を切った。


一臣は内心ぎょっとしたが、芽衣がこちらの反応を窺っていることに気づくと、自分の返答が彼女の心に及ぼす影響を考え、強いて平静を装った。


「そうだったんですか。大変でしたね」


月並みな答えに、芽衣は深く息を吐いた。


「男の人で、営業だったんですけど、ノルマが全然達成できなくて。ほかにも伝票の記載間違いで損失を出しちゃったり、電話の対応が悪くてお得意先に怒られたり、確かに仕事ができる人じゃありませんでした。

でも、自殺に追い込むまでするなんて、そこまでする必要があったのかなって」


職場で公然と、いじめがあったのだという。


「毎日毎日、課長とか部長とか、同僚の人たちにも罵られて。小突かれたり、見せしめみたいな感じにされたり、笑い者にされたり。新年会や忘年会に、あの人だけ呼ばれなかったこともありました。

でもその人、へらへら笑ってるだけなんです。上司から注意されてるときも、自分のミスのせいでみんなが残業しなくちゃいけなくなっても。だからみんなも余計に腹が立ったんだと思います。あいつ、おかしいよ。普通じゃない。頭壊れてんじゃないの?って。

実際、何回教えてもミスが減らなくて、あの人のせいで本当に周りが迷惑してたのは事実だったから」

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