第33話 ※一臣視点

何歳ぐらいなのと一臣が尋ねると、正確な年齢は分からないが三十五ぐらいじゃないかと思うと芽衣は言った。


十歳以上も歳の離れた小娘にここまで侮られているのだから、他の人間の対応は推して知るべしだろう。


「それで?」


と促すと、芽衣は「それで……」と口ごもり、


「私は止めなかったんです。見ているだけで何もしなかった。知ってたけど、気づいてないふりをしてた。でも、まさか死ぬなんて。

だって金曜、普通にお疲れさまですって言って帰ったんですよ。それに何を言われても、何をされても全然効いてないっていうか、鈍感な感じで。悩んでる様子もなかったし、こっちがいろいろ気を使っても向こうは全然気づいてなくて。そういう人で。だから……」


話が支離滅裂になってきたが、一臣は口を挟まず聞いていた。


「だって嫌なら転職すればいいだけのことじゃないですか。なのにいきなり月曜日、会社に来なくて。火曜日になっても連絡が取れなかったから、家族がアパートに行って確かめたら、日曜日の晩に首をくくってたんだって。それ聞いて私、頭が真っ白になって。

でも会社の人たち、げらげら笑ってた。お通夜どうする?とか言いながら、でもあいつだしなとか、やっと死んだかとか、まだその人の悪口言ってた。

……腐ってると思いました。

確かにあの人は仕事ができない、迷惑な人だったのかもしれない。でも一人の人間を死ぬまで追い込んでおいて、止めようともしなくて、死んだら死んだで反省するどころか笑ってる、罪の意識なんて全然ない。私たちのほうこそ頭がおかしい、狂ってるんじゃないかって」


そうだね、と一臣は頷いた。

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