第31話 ※一臣視点

「ごめんなさい。ご迷惑をおかけしてしまって」


あまりにも何度も頭を下げるので、一臣は彼女を見つめ、


「謝らなくていいですから、まずは自分の体の心配をしましょうね」


静かに諭され、芽衣はようやく我に返ったようだった。


息を飲んで一臣を見上げ、表情がくしゃりと歪む。


目から大粒の涙が溢れ出すまで、さほど時間はかからなかった。


「最近あんまり眠れなくて。ご飯も……どうしても食べられなくて」


か細い声が涙に混じって滲む。


「お疲れなんですね」


一臣はゆっくりと言った。


「頑張りすぎて、体が疲れたって言ってるのかもしれませんね。ちょっと休みたいって」


芽衣が首を振ったので、一臣は目を丸くした。


「違うんです。私じゃなくて……」


そこまで言うと再び涙が溢れ、芽衣は右手の手の甲で何度も目を拭った。


見かねた一臣がタオルを差し出し、それに顔を押しつけるようにして芽衣は泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る