第100話 ※芽衣視点
***芽衣視点***
「高遠のマンションに住んでたんだけど、重くなったから出てきたのー」
あっさり言われ、芽衣は真っ青になった。
「つき合ってるの?」
堪えようとしても膝がわなわなと震えてくるのが止められず、右手を強く握り締める。
「ううん、ちょこっと一緒に住んでただけ」
「何で?何でお姉ちゃんが、高遠さんの部屋に住むの」
「何でって言われてもなー」
空を仰ぎ、薔子は両手を後ろで組み合わせる。
「お姉ちゃんがかわいいからじゃない?」
それを聞いて、頭にかっと血が上った。
薔子はからかうように、
「大丈夫よー、そんなんじゃないから安心して。芽衣が高遠狙いなら、お姉ちゃん芽衣のこと応援する」
「ふざけないで」
芽衣は怒鳴りつけた。
「何で……何でいつも私の邪魔するの。小さいころからずっと!」
薔子の目がすうっと細くなる。
右足で思い切り地団駄を踏み、芽衣は語気を荒げた。
「お父さん殺して、お母さん壊して!これ以上、何がしたいっていうの。もう自分に関わるなって、お姉ちゃんが言ったんじゃない!私を捨てたんでしょう?だったら今さら私の生活に入ってこないで。私の人生、これ以上めちゃくちゃにしないで!」
反論も抗弁もせず、ただ黙って薔子は罵声を受けとめていた。
――お姉ちゃんさえいなければ……。
今まで何度思ったことだろう。
三つ年上の姉は、この世の全てを持っていた。
普通の人間とはかけ離れた美貌、磨き抜かれた知性、人としての魅力、人望。
清瀬由衣は、世界の中心で咲く大輪の花だった。
主役はいつも姉で、自分は姉を飾る引き立て役。
人気も愛も知名度も、人生の華やかなもの全てを無邪気に独占して譲らなかった。
学校でも親戚の集まりでも子供会でも、どこに行っても姉だけが注目され、かわいがられ、得をする。
芽衣が好きになった男の子たちは皆、口を揃えて姉のことが好きだと言った。
――それでもよかった。
悔しかったし嫉妬もしたが、芽衣は姉が好きだった。
明るく綺麗で、優しくて何でもできる姉。
憧れ、焦がれ、いつか自分もこんなふうになれたらと夢見ていた。
そう。九年前、父が殺され、家庭が崩壊するまでは。
ある日、帰宅すると家の前に救急車とパトカーがとまっていて、野次馬で人だかりができていた。
母親は病院に入院していておらず、警察の人に姉の居場所を聞くと、事情を聞いているから今は会えないと言われた。
「お父さんは?」
芽衣の質問に、刑事さんが困ったような渋い顔をしたことを今でも覚えている。
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