第8話

家を出る時間が迫っている。


ともかく高遠はゼリー飲料を手早く胃に流し込み、服を着がえて身支度を整え、カバンを手にもう一度ベッドへ向かった。


「もういいから、とにかく出てってくれ」


呼びかけるが、ベッドからは「むにゃむにゃ~」という声しか返ってこない。


いらっとした高遠は、乱暴にタオルケットを掴んで引っ張った。


「やだー。高遠のえっちー」


笑いながら薔子しょうこが身をくねらせる。


「他人の家で勝手に寝てんじゃねえ。犯されたくなかったらさっさと出てけ!」


強い口調でなじったとき、ふと高遠の視界にあるものが映った。


それは、傷だった。


薔子の光るように白い体、その左足の太ももに、鋭利えいりな線をした傷痕きずあとが薄茶色く浮かび上がっていた。


他の部分がしみ一つなく透きとおった肌であるだけに、その傷はいっそう鮮烈せんれつな印象を与えていた。

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