第60話

「ごめんね、清瀬さん。夜中にこんなのにつき合わせて」


一臣が車を出し、自宅のあるアパートまで彼女を送り届けると、車からおりた芽衣は深々と頭を下げた。


「今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです」


「よかった。また、いつでも来てね。一緒にフットサルやろう」


運転席の一臣は言い、芽衣は「はい」と頷いた。


助手席に乗る高遠は窓を開けて、


「大丈夫?」


具体的に何をと高遠は言わなかったが、芽衣は理解しているようだった。


「はい。いっぱい笑ったから、また頑張れそうです」


さとい子だ。そして人に気を遣いすぎる。


高遠は目を細めた。


「頑張らなくていいよ」


予想外の言葉だったのか、芽衣はきょとんとした。


「辛くなったら、夜中でもいつでもいいから電話して。待ってるから」


かすかに唇を開きかけて閉じ、芽衣の瞳にじわりと水の膜が張る。


「……はい」


車が角を曲がって走り去るまで、彼女はずっと頭を下げ続けていた。

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