第40話


「二時に予約しておりました相澤です」


「お待ちしておりました、どうぞ」


吹き抜けになった高い天井に、白を基調とした明るく清々しい室内。


ガラス張りで解放感がありながらも、置かれた観葉植物や調度品によってパーソナルスペースが上手に守られている。


美容室『ノアズアーク』表参道店は、なかなか予約がとれないことで有名な、雑誌やテレビでも特集されている人気店だった。


「初めまして。今回、担当させていただく小村と申します」


待合スペースで雑誌を読んでいた彼女に、高遠は完璧な笑顔で声をかけた。


そしてぎょっとした。


「えへへ。来ちゃったー」


鼻にかかる甘ったるい声で言って、薔子はおちゃめにウインクしてみせた。


信じられない。


相澤という苗字で予約していたから、名前についてはノーマークだった。


まさか薔子本人がお出ましになるとは。


職場の場所を教えたことは一度もないが、どうせ寝ている間に社員証でも見つけたのだろう。


呆れるやら怒るやらで、言葉もない高遠である。


それでも相手が客である以上、プロとしての対応を徹底しようとしているのに、


「え、何。高遠の彼女?」


目ざとくやりとりを聞きつけた先輩が近寄ってきて言うものだから、


「違いますよ」


笑いながらも、高遠はむきになって否定した。


「ただの知り合いです」


「彼女さん、超美人だね。何してる人?」


「……浅見さん。ちょっと向こう行っててもらえますか」


低目の声で言うと、ちょうど昼休憩に入るところだったらしく、浅見はそそくさとその場を離れていった。

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