第39話 ※芽衣視点

「鬼が入ってきたときから、私は次に何が起こるか分かってて、止めようと思うのに、いつも体が動かないんです。お父さんお母さん逃げてって言えばいいのに、言葉が何も出てこなくて。

お父さんとお母さんが死んで、そこらじゅうが血まみれになって、それで鬼がこっちを向いて笑うんです。笑って何か言いかけて、いつもそこで目が覚めます。大きな声で叫びながら。自分の叫び声で飛び起きるんです」


言い終えると、芽衣は大きく息をついた。


心臓が不快な熱を帯びて鼓動を速めている。


「最近、眠れていますか」


医師は静かに芽衣に問いかけた。


「あんまり……」


芽衣は力なく首を振る。


「ご飯は食べられていますか」


「それもあんまり。食べようとは思うんですけど、気持ち悪くて」


医師はカルテに何事か書き込むと、


「お薬を出しておきますから、一週間後にまた来院してください」


上の空でぼうっとしていた芽衣だったが、


「清瀬さん」


と、医師に再び促されて席を立った。


「あ、はい。すいません。ありがとうございました」


「お大事に」


重い黒の扉が大きすぎる音を立てて、五分にも満たない診察の終わりを告げた。















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