第38話 ※芽衣視点
***芽衣視点***
大きな壁かけ時計が時を刻む音だけが、室内に響いている。
「……時々、すごく怖い夢を見るんです」
膝の上で組み合わせた手に視線を落として、芽衣は語り始めた。
「お父さんがいて、お母さんがいて、私がいて。自分が生まれ育った実家が、埼玉の田舎なんですけど、そこの家で。リビングのテーブルで、みんなで一緒に晩ご飯を食べてるんです。多分クリームシチューで、パンとサラダもあって。
夢の中の私は、すごく喜んで食べてます。おいしくて楽しくて、にこにこしてます。お父さんが何か冗談を言って笑って、お母さんがおかわりは要るかって聞いてくれます。幸せであったかくて嬉しいのに、そこに鬼が入ってくるんです」
言葉を切って、芽衣はおそるおそる目を上げた。
白衣を着た初老の男性は、芽衣の話に頷いたり相づちを打つわけではないが、その両目はじっと、こちらを見つめている。
重厚なテーブル、背の高いガラス棚、ところ狭しと置かれた観葉植物、床に敷かれたペルシャ織りの絨毯。
整然とした書斎といった印象の部屋は、小さな声もよく拾って反響する。
芽衣は背筋が強張って、もう一度椅子に深く座りなおした。
「リビングに包丁を持った鬼がいきなり入ってきて、お父さんとお母さんを刺し殺すんです。抵抗したり、助けてって叫ぶ暇もないぐらい、あり得ないぐらいの速さで二人の首や胸やお腹を何度も何度も刺して。お父さんもお母さんも、あっという間に床に倒れて、辺りには血が飛び散って、湯気の上がったシチューに血がまじって赤く濁って、私の手も真っ赤になります」
言いながら、芽衣は手のひらをまじまじと見つめた。
あたかも自分の手に血がこびりついているかのように。
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