第41話

「お席に案内しますね。足元にお気をつけください」


受付から中へ案内すると、接客中のスタッフほぼ全員が振り向き、鏡に向かっている客たちもはっと目を見開いた。


やはり薔子の際立った美貌は、半ば強制的に人の視線を集めるらしい。


今日の薔子は白いシャツにジーパン、胸元に小さなネックレスという割と地味な格好をしている。


髪もセットしておらず、普通におろしたままだ。


それなのにというべきか、だからこそというべきなのか、スタイルのよさや整った顔立ちが一層はっきりと感じられた。


「怒ってるの?」


椅子に座らせたまま高遠が一言も発しないので、くるりと薔子は振り向いた。


目にはいたずらっぽい光がある。


「今日はいかがなさいますか。カットをご希望と承っておりますが」


高遠は美容師としての応対をあくまで崩そうとはしなかった。


薔子が軽く頬を膨らませ、


「怒ることないじゃん。だって、高遠のお店がどんなところか見てみたかったんだもん」


「スタイルチェンジをご希望ですか?イメージがお決まりでなければ、何か雑誌からお選びになりますか」


「もう、高遠の馬鹿。意地悪」


涙目になって、薔子はそっぽを向いている。

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