第113話

「由衣の友達なんですよね」


落ちついた声で彼は言った。


「はい。小村高遠と申します」


「俺は安藤比呂あんどう・ひろです。由衣とは中学の同級生でした」


「はい、そう聞きました」


高遠は相づちを打った。


「それで今、ちょっと彼女を捜してて」


「いなくなっちゃったんですか」


「はい。それでもし由衣さんの行きそうな場所に心当たりがあれば、教えていただけないかと思って」


比呂は悩ましげに首をひねった。


「そういうことなら、あんまり役に立たないかもしれないですね。逮捕されてから今まで、俺あいつと一度も会ってないですから」


「そうですよね。すみません」


なぜだか恥じ入る気分でうなだれていた高遠だったが、ぱっと顔を上げて、


「じゃあ、中学時代のことを教えてもらえませんか」


比呂が目を丸くした。


「見ず知らずの人間に、いきなり聞かれても話したくないっていうのは重々承知です。でも俺、どんなことでも手がかりが欲しいんです。彼女に会ってからまだ二、三ヶ月しか経ってないので、どういう人なのか全く分からなくて。だから」


かすかな笑い声がして、高遠は目を上げた。


比呂は柔らかな表情で、


「すげえ分かります。俺もあいつといると楽しくて、いろんなこと話したけど、結局あいつのことは何一つ分かんなかったんじゃないかなって、いまだにそう思うんです」


高遠は膝の上に置いた手を握りしめた。


「由衣さんの父親を……」


口ごもっていると、比呂はみずから言葉を引き継いだ。


「はい、俺が殺しました。自分の家から包丁を持っていって刺したんです。親父さんは酒飲んで寝てたんで、全く抵抗されませんでした。

あのときの感覚は、今でも手に残ってます」


淡々とした語り口だったが、彼の瞳は深淵を感じさせた。

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